オランダの大学やHBOで学ぶ日本人が、卒業後も現地で働きたいと考えるとき、最初に整理したいのは「学生ビザを就労ビザへ直接変える」というより、「学生滞在許可の終了前後にorientation yearを挟み、就職先が決まったら高度人材ビザなどへ移る」という流れです。IND公式情報では、学生滞在許可、orientation year、高度人材ビザはそれぞれ別の在留目的として扱われます。
この記事は、2026年6月15日時点で確認できるIND公式情報をもとに、日本人読者が卒業前から何を準備すればよいかを整理します。個別の在留可否、卒業日の扱い、雇用契約、家族帯同、医療職などの職種要件は条件により異なります。この記事は一般的な情報整理であり、最終判断はIND、在籍校のinternational office、雇用主の移民担当者、必要に応じて資格を持つ専門家に確認してください。
学生滞在許可の終わりから逆算します
オランダの学生滞在許可は、大学やHBOなどの教育機関がINDの認定スポンサーとして申請する仕組みです。日本の感覚では「学生ビザを自分で更新する」と考えがちですが、オランダでは学校が在留目的の中心にいます。学生本人は、フルタイムの登録、十分な資金、学修進捗などの要件を満たし続ける必要があります。
学校がスポンサーである間は学生のルールです
INDの学生滞在許可ページでは、教育機関が申請主体になり、学生は毎年十分な学修進捗を求められると説明されています。目安として、各学年で少なくとも50%の単位取得が求められ、十分な理由なく不足した場合は、学校がINDへ報告する流れになります。卒業後に働く予定があっても、学生滞在許可でいる間は、あくまで「学ぶための在留」です。
ここで大事なのは、卒業が近づいた段階で学校との関係が薄くなっても、在留上のスポンサーはまだ学校だという点です。論文提出後、卒業式前、最終成績の確定前、正式な卒業証明の発行前では、学校側が出せる書類が違うことがあります。orientation yearの申請準備では、卒業証明書、修了見込み、statement on completionのような書類が実務上の起点になります。
在学中のアルバイト制限と卒業後の働き方は別です
学生滞在許可で雇用されて働く場合、雇用主側のTWVが必要になり、週16時間まで、または6月・7月・8月のフルタイムのどちらかを選ぶ扱いです。これは、日本の留学生アルバイトの感覚と似て見えますが、雇用主の許可や監督が絡む点で違います。許可なく働きすぎると、雇用主への罰金やINDへの報告につながる可能性があります。
一方、orientation yearの滞在許可に切り替わると、在留カード上の就労条件が大きく変わります。INDは、orientation yearでは雇用、インターン、個人事業、フリーランスとして自由に働くことができ、TWVは不要と説明しています。つまり、卒業後の就職活動を進めるなら、学生滞在許可のまま働き方を広げようとするのではなく、どの時点でorientation yearへ移るかを先に設計する方が現実的です。
「卒業したら自動で仕事用になる」わけではありません
卒業しただけで、学生滞在許可が自動的に就労用へ変わるわけではありません。INDの学生滞在許可ページでは、学業を終えた後の別の在留許可として、仕事探し、highly skilled migrant、start-upなどが示されています。日本人がよく混同するのは、卒業後の猶予期間と、仕事をするための在留資格です。滞在期限がまだ残っていることと、自由に就労できることは同じではありません。
私が2025年にオランダ移住の準備をしたときにも感じたのは、オランダの手続きは「いま自分が何の目的で滞在しているか」をかなり厳密に分けるということです。学生、仕事探し、雇用、起業は、それぞれ入口が違います。日本語ではまとめて「ビザ切替」と言えてしまいますが、実務では在留目的を一つずつ乗り換えると理解した方が混乱しにくいです。
orientation yearは卒業後1年の橋渡しです
orientation yearは、英語では residence permit for orientation year、対象者を highly educated persons と表現します。オランダで高等教育を終えた人や一定条件の研究者などが、卒業後に仕事を探し、働くための1年間の滞在許可です。日本人がオランダの大学・HBOを卒業して現地就職を目指すなら、かなり重要な中間ルートになります。
対象になる卒業・研究の範囲を確認します
INDは、申請日から過去3年以内に、オランダの認定された高等教育機関で bachelor または master を修了した場合などをorientation yearの対象として示しています。ほかにも、オランダで少なくとも1学年、10か月以上のpost-masterを修了した場合、一定の研究を行った場合、Erasmus Mundus Joint Masterを修了した場合などが含まれます。
日本の大学や海外大学だけを卒業している場合も、指定された外国教育機関の条件に合えば対象になる可能性があります。ただし、その場合は大学ランキング、卒業時点、専攻との関係、英語・オランダ語要件、Nufficによる学位評価などが絡みます。この記事では、主にオランダの学生滞在許可から卒業する日本人を想定します。日本の大学卒業だけで自動的に使える制度ではないため、海外学位を使う場合は別枠で確認した方が安全です。
オランダ国内からのオンライン申請にはBRP・BSN・DigiDが関係します
オランダ国内からオンラインでorientation yearを申請できるのは、オランダに住んでいて、オランダで卒業・博士号取得・研究を行い、その目的の有効な滞在許可を持ち、BRPに登録され、BSNを持っている場合です。オンライン申請ではDigiDが必要です。BRPは自治体の住民登録、BSNは住民登録などで付与される市民サービス番号です。
この条件は、日本人にとって実務上かなり大きいです。住所登録が遅れている、DigiDの有効化が済んでいない、卒業証明がまだ出ていない、銀行口座やiDEAL支払いが整っていないと、オンライン申請の段階で詰まりやすくなります。学校のinternational officeに相談するときは、「いつ卒業扱いになるか」だけでなく、「orientation year申請に使える書類がいつ出るか」まで確認してください。
1年有効で延長はできません
orientation yearの滞在許可は1年間有効で、延長はできません。INDは、同じ学位や同じ研究を理由に、再度orientation yearを持つこともできないと説明しています。別の研究や別の学位を新たに終えた場合は別の扱いになり得ますが、通常の卒業後就職では「1回だけの1年」と考えるのが実務的です。
2026年6月15日時点で、orientation yearの申請費用はINDページ上で254ユーロ、決定期間は90日と示されています。金額や期間は変わる可能性があるため、申請前に最新ページを確認してください。卒業後すぐに仕事が決まらない人でも、この1年の間に雇用契約を取り、次の在留資格へ移る設計ができます。
許可前に働けるかはResidence Endorsement stickerを見ます
orientation yearの申請中に働き始めたい場合も、自己判断は避けた方がよいです。INDは、申請にオランダの卒業証明、修了証明、statement on completionなどを含めた場合、一定の条件で申請中に働ける可能性を示しています。ただし、その場合でも、パスポートにResidence Endorsement stickerを受け、そこに「Work freely permitted, TWV not required」に相当する記載が必要です。
日本人の場合、雇用主から「卒業したならすぐ働けるのでは」と言われることがあります。ここは丁寧に分けてください。学生滞在許可の就労制限、orientation year申請中のステッカー、orientation year許可後の自由就労は別の状態です。私なら、卒業証明が出る時期、申請送信日、ステッカー予約、雇用開始予定日を一枚の表にして、雇用主と学校に共有します。
就労ビザへの出口は高度人材ビザが中心になります
orientation yearは、仕事探しと就労のための時間を作る制度です。ただし、1年後もオランダに残って雇用され続けたいなら、次の在留資格が必要になります。日本人の現地就職で代表的なのは、Highly Skilled Migrant、いわゆる高度人材ビザです。制度名の印象よりも、実務では「IND認定スポンサーである雇用主が、給与基準を満たす契約で申請する在留許可」と理解すると整理しやすいです。
雇用主がINDの認定スポンサーであることが入口です
INDの高度人材ビザページでは、申請できるのはINDに認定された雇用主であり、本人にはオランダの雇用主または研究機関との雇用契約が必要とされています。認定スポンサーはINDのpublic registerで確認できます。求人票のブランド名ではなく、雇用契約の相手になる正式な法人名で確認するのが大切です。
たとえば、日本人向けの求人で「visa sponsorship available」と書かれていても、その会社がINDの認定スポンサーか、どの法人が雇用主になるか、給与支払いはどこから行われるかは別問題です。日本法人からの出向、EU外法人との契約、オランダ法人採用では、在留・税務・社会保険の整理が変わる可能性があります。この記事では断定できないため、内定前に会社側へ確認してください。
2026年の減額給与基準はorientation yearと相性があります
INDの2026年給与基準では、高度人材ビザの通常基準として30歳未満が月額4,357ユーロ、30歳以上が月額5,942ユーロ、減額給与基準が月額3,122ユーロと示されています。orientation yearを持っている人、または卒業日・博士号取得日から3年以内に高度人材ビザを申請する人などは、条件に合えばこの減額給与基準が使える可能性があります。
ここは、日本人卒業生にとってかなり大きい差分です。新卒・若手でオランダ企業に就職する場合、通常のHSM基準では給与が届きにくいことがあります。減額基準に該当すれば、初回の就職可能性が広がります。ただし、これは「留学生なら誰でも安い基準でよい」という意味ではありません。卒業日、orientation yearの有無、申請日、雇用主の認定スポンサー状況を合わせて確認する必要があります。
申請主体は本人ではなく雇用主です
orientation yearは本人が申請する色合いが強い一方、高度人材ビザは雇用主側の手続きが中心です。INDは、雇用主がオンラインまたは郵送で申請し、通常の決定期間は90日と説明しています。費用は雇用主が支払う形で案内されています。本人ができるのは、必要書類を早くそろえ、契約条件と給与条件を理解し、開始日や在留期限を共有することです。
雇用主に確認したいのは、正式な雇用主名、IND認定スポンサーとしての登録、月額グロス給与、休暇手当や固定手当の扱い、契約開始日、申請予定日、家族帯同の有無です。特に年末年始をまたぐ場合は、給与基準が翌年に更新される可能性があります。2026年の金額で足りていても、2027年開始の契約では新基準を見る可能性があるため、境界線に近い給与なら余裕を持って確認してください。
start-upや自営業ルートとは混ぜません
卒業後に自分で事業をしたい人は、start-upやself-employedの在留許可を検討する余地があります。ただし、この記事の主題である「学生滞在許可からorientation yearを使い、雇用先を見つけて就労ビザへ移る」流れとは入口が違います。DAFTは米国籍など特定国籍に関係する文脈で語られることが多く、日本人の卒業後就職ルートの中心には置きません。
orientation yearではフリーランスや個人事業として働ける余地がありますが、1年後に雇用で残るなら、高度人材ビザの雇用主スポンサーと給与基準が中心論点になります。将来独立したい場合でも、最初の滞在継続をどの在留資格で支えるかは分けて考える方が安全です。
日本人が詰まりやすい実務差分を先に潰します
日本人は、オランダ入国のしやすさと、長期滞在・就労の許可を混同しやすいです。INDのMVVページでは、日本国籍者はMVVが不要な国籍に含まれています。ただし、MVVが不要というのは、長期滞在の入国査証が不要という意味であり、90日を超えて滞在し働くための在留許可まで不要になるわけではありません。
MVV免除でも在留許可は必要です
日本のパスポートを持っていると、短期滞在でオランダに入りやすいため、「ビザなしで入れるなら、そのまま就職できるのでは」と考えがちです。しかし、学生として学ぶ、orientation yearで働く、高度人材として雇用される、という各目的にはそれぞれの在留許可があります。日本人にとって省略されやすいのはMVVの部分であり、INDの審査や在留カードの取得まで消えるわけではありません。
すでにオランダで学生滞在許可を持っている人は、卒業後の切替で国外からMVVを取り直す場面は限定的かもしれません。それでも、在留期限が切れた後に何もしないまま滞在する、短期滞在扱いで働く、申請中の就労条件を確認せずに勤務開始する、といった進め方は避けるべきです。条件により扱いが変わるため、必ずINDと学校・雇用主の案内で確認してください。
BRP・BSN・DigiDは早めに整えます
orientation yearのオンライン申請では、BRP登録、BSN、DigiDが実務上の前提になります。Government.nlは、BRPがオランダ居住者などの個人データを管理する登録制度であり、短期滞在者もRNI登録を通じてBSNを得る場合があると説明しています。DigiDは、政府系オンライン手続きで本人確認に使う仕組みです。
日本から来た学生は、住所登録、DigiD申請、アプリ有効化、SMS確認、銀行口座、iDEAL支払いなどが一つずつ別の手続きに見えます。しかし、卒業後の申請ではこれらが連動します。住民登録の住所が変わっている、DigiDログイン方法が古い、銀行支払いができない、学校の登録情報と住所がずれている、といった小さな未整備が申請時期に響くことがあります。
住所・保険・税務は在留資格とは別管理です
orientation yearや高度人材ビザに切り替わっても、住居、健康保険、税務、銀行、携帯契約、自治体登録は自動で整いません。学生から労働者になると、健康保険の扱いが変わる可能性があります。学生滞在中のアルバイト、自営業、orientation year中のフリーランス、HSMとしての雇用では、税務や保険の見方も変わり得ます。
この記事では税務・保険の個別判断までは扱いません。大切なのは、在留許可が通ったことだけで生活側の義務が終わるわけではないということです。私自身、オランダ移住では「在留」と「住民登録」と「保険」と「税務」を一つの手続きだと思わない方が楽だと感じました。別々の制度として、締切と担当窓口を分けて管理するのが現実的です。
家族帯同は本人の切替と同時に設計します
配偶者や子どもがいる場合、本人のorientation yearやHSMだけを先に考えると、後から家族の書類で詰まることがあります。婚姻関係、出生関係、翻訳、アポスティーユ、住所、学校、保険、入国日が絡むためです。雇用主がHSM申請を扱う場合、家族の申請も一緒に進められるかを早い段階で確認してください。
日本の戸籍関係書類は、オランダ側でそのまま読めないことがあります。英訳、認証、発行日、原本の扱いは、申請時点の案内に従って準備します。卒業、就職、引っ越し、家族の渡航が同じ月に重なると、1つの遅れが全体の予定に波及します。家族がいる人ほど、卒業半年前からカレンダーに落とし込むのがおすすめです。
卒業前から内定後までのチェックリストです
ここまでの内容を、卒業前から内定後までの実務に落とすと、見るべき相手は三つです。学校、IND、雇用主です。学校は卒業・在籍・書類発行、INDは在留資格、雇用主はスポンサーと契約条件を担います。どこか一つだけに聞いても全体像は揃いません。
卒業6か月前から3か月前に確認すること
卒業見込みが立ったら、まず学校に卒業日、正式な修了日、卒業証明書またはcompletion statementの発行時期を確認します。次に、自分の学生滞在許可の有効期限、BRP登録住所、BSN、DigiDの状態を確認します。住所変更をしていない、DigiDを長く使っていない、パスポート期限が近い場合は、この段階で直した方がよいです。
就職活動では、求人票に「visa sponsorship」とあるかだけでなく、HSMの認定スポンサーかどうかを確認します。会社名は、ブランド名ではなく雇用契約に出る法人名で見ます。減額給与基準を使いたい場合は、卒業日から3年以内という時間軸と、申請がorientation year中または条件に合うタイミングかを雇用主に伝えられるようにしておくと話が早いです。
卒業直後に確認すること
卒業直後は、気持ちとしては就職活動に集中したくなりますが、在留ステータスの確認を先に置くべきです。orientation yearを使うなら、必要書類、オンライン申請の可否、支払い、決定期間、申請中の就労可否を確認します。申請中に働きたい場合は、Residence Endorsement stickerが必要になる可能性があります。
この時期に避けたいのは、「まだ学生滞在許可が少し残っているから大丈夫」とだけ考えることです。学生滞在許可の期限内でも、卒業後の在留目的が変わるなら次の申請を準備します。また、就職先が決まっていない場合でも、orientation yearは仕事探しの時間を作る制度です。1年を最大限使うには、卒業後すぐに動き出す方が余裕が出ます。
内定が出た後に雇用主へ聞くこと
内定後は、雇用主にHSM申請の実務を確認します。聞くべきことは、どの法人が認定スポンサーとして申請するか、契約開始日はいつか、月額グロス給与がINDの該当基準を満たすか、減額給与基準を使う前提か、申請予定日はいつか、家族の申請も同時に扱うかです。給与が年収表記の場合は、休暇手当や固定手当を含めずに見ても足りるかを確認します。
英語で短く聞くなら、「Which Dutch legal entity will be my recognised sponsor?」「Will the application use the reduced salary criterion for graduates?」「Is the gross monthly salary sufficient for the IND requirement on the contract start date?」「Can my family members be included in the application?」のような聞き方が実務的です。口頭で済ませず、メールやオファーレター上で確認できる形にしておくと、後から認識違いを減らせます。
判断に迷うときの赤信号
注意したいのは、在留期限が残り1か月を切っている、雇用主が認定スポンサーか答えられない、給与が基準ぎりぎり、契約開始日が年明け、卒業証明の発行が遅い、家族の書類が未準備、申請中に働く前提なのにステッカーの話が出ていない、といったケースです。どれか一つでもある場合は、自己判断で進めず、学校・雇用主・INDの案内を突き合わせてください。
学生滞在許可から就労ビザへの切替は、難しいというより、順番を間違えると詰まりやすい手続きです。卒業前に学校の書類、BRP・BSN・DigiD、orientation year申請、HSMスポンサー、給与基準を分けて確認できれば、かなり見通しは良くなります。日本人の場合はMVV免除という利点がありますが、それだけで働けるわけではありません。卒業後の1年を橋渡しとして使い、就職先が決まったら雇用主主導の就労在留へ移る、という順で考えるのが現実的です。