病気と共に生きるあなたへ
持病があっても、暮らす場所を選び直すことは諦めなくていい。ただし、健康な人よりも考えるべき論点は多くあります。当事者の家族として同じ道を歩いてきた私たちが、押さえるべきポイントを整理しました。
私たちも、同じ道を歩いています
1Stop Directを運営するNPO法人CancerWithの代表・仁田坂淳史は、家族ががん当事者です。「治療を続けながら、住む場所を選び直すことはできるのか」という問いは、私たち自身の問いでもあります。このページは、きれいごとではなく、私たちが実際に調べ、相談し、迷ってきたことを書いています。
よくある疑問 — 持病と海外移住
オランダの主要就労系ビザ(DAFT、高度専門職、家族、学生)では、申請時の健康診断は原則ありません。結核検査の対象国がありますが、日本は除外されています。
一方、オーストラリア・カナダ・ニュージーランド等では健康診断が必須です。がん既往歴・慢性疾患がある場合、移住先国によって要件が大きく異なるので、最初の国選びの段階で「健康診断の有無」を確認することをおすすめします。
ビザ申請書に健康関連の質問項目がある場合は、正確に記載してください。虚偽申告は将来の滞在許可更新・永住権申請で不利になります。
オランダの一般的なビザ申請では、既往歴を自発的に申告する必要はありません。ただし、現地で加入する健康保険や、渡航時に継続する民間の医療保険では、告知義務が存在する場合があります。
オランダは全住民加入の基礎健康保険(Zorgverzekering)があり、既往歴を理由に加入を拒否されることは法的にありません。基礎プランは誰でも加入できます。
一方、日本発の民間海外旅行保険・駐在員保険では、既往歴を理由に引受不可または既往症不担保となることがあります。渡航前後の「谷間」の期間をどうカバーするかは、個別に検討が必要です。
個人使用目的であれば、一定量は持ち込み可能です。一般的な目安は以下の通りです。
- 医師の英文処方箋・診断書の携行
- 向精神薬・麻薬系は別途 Schengen Certificate が必要(最大30日分)
- 通常の処方薬は概ね3ヶ月分まで
日本薬局方名と国際一般名(INN)が異なる薬があるため、英文書類には両方の名称を記載してもらうと安心です。
オランダはGP(Huisarts、家庭医)登録制です。まずGPに登録し、紹介状をもらって専門医(Specialist)や病院にかかる流れです。
がん・難病など継続治療が必要な場合、渡航前に日本の主治医から英文の診療情報提供書(Medical Summary)を受け取り、現地GPに渡すことで引き継ぎがスムーズになります。GP登録は居住地の近くが原則なので、住居探しと並行して検討してください。
帰国の判断は個別要素が大きく、一律の答えはありません。事前に家族で決めておきたい論点は以下です。
- どの状態になったら日本に戻るのか(例:特定治療の適応外、治療言語の限界)
- 帰国時の住まい・主治医の引き継ぎ先
- 航空搬送(医療搬送)の費用と手段
- 日本の健康保険の再加入タイミング
「いつか判断する」ではなく、渡航前に書き出しておくことをおすすめします。
日本の健康保険・国民健康保険は、原則として「日本に住所がある人」が対象です。海外転出届を出すと資格を喪失します。
- 高額療養費制度:日本在住時のみ適用
- 海外療養費制度:日本の保険に加入したまま海外で治療を受けた場合、日本の診療報酬基準で算定した金額の一部が払戻される制度。適用条件は厳しく、実費との差額は自己負担
- 傷病手当金:社会保険(被用者保険)加入時に支給。海外転出後の扱いは加入先に要確認
配偶者・子は家族帯同ビザで同行できます。家族全員がオランダの基礎健康保険に加入する義務があります(18歳未満は原則無料、成人は月額120-150EUR程度)。
帯同家族が継続的な治療を必要とする場合、基礎保険の「任意追加保険(Aanvullende Verzekering)」で歯科・理学療法・海外治療等をカバーすることを検討します。
違います。オランダは在宅緩和ケア・ホスピスが比較的整備されており、GPが終末期ケアのコーディネーターになります。安楽死(Euthanasia)が法制化されている点も日本と大きく異なります。
文化・宗教的背景が異なるため、「何を望むか」の意思表示をあらかじめ書面で残すことが重要です(Advance Care Planning)。
障害年金は、海外転出後も受給資格が継続することが一般的です。日本年金機構への「年金受給者の住所・支払機関変更届」の提出が必要です。
傷病手当金は、加入中の健康保険組合に個別に確認してください。海外療養中の扱いは保険者により判断が異なります。
英文の診療情報提供書(Medical Summary)は、日本の主治医に依頼します。多くの病院で有料対応していますが、様式・所要期間は病院により異なります(2-4週間が目安)。
画像データ(CT・MRI)はDICOM形式でCD/DVDに焼いてもらい、現地に持参するのが一般的です。病理プレパラートの貸出が必要な場合は、早めに病院と相談してください。
あります。オランダの心理カウンセラーは英語対応が広く可能ですが、「言語化しづらい感情を母語で扱える相手」は貴重です。
日本語対応のオンラインカウンセリング、日本人コミュニティの互助グループ、遠隔診療を組み合わせて使う方が多い印象です。姉妹組織のCancerWith(cancerwith.com)のオンライン相談もご利用いただけます。
意思決定の整理シート — 家族で話し合うチェック項目
渡航前に書き出しておきたいこと
- 現在の治療内容・使用薬剤(一般名・商品名)・投与スケジュール
- 現地GP登録までの「つなぎ」期間(渡航直後1-2ヶ月)の医療体制
- 帰国を判断する条件(治療適応外、体調閾値、家族の事情)
- 緊急時の連絡網(日本の主治医、日本の家族、現地の知人)
- 医療搬送保険への加入可否と費用
- 治療費用の備え(現地保険で出ない部分の自己資金)
- 年金・傷病手当金・民間保険の海外転出時の扱い
- Advance Care Planning(意思表示書)の作成
- 家族の役割分担(誰が医療窓口、誰が行政窓口か)
- 「うまくいかなかったとき」の撤退シナリオ
重要な注意事項
本ページは情報整理を目的とした非営利活動の一環です。医学的判断・治療方針の決定は、必ず主治医・医療機関にご相談ください。1Stop DirectおよびNPO法人CancerWithは医療機関ではなく、診断・治療・医学的助言は行いません。渡航の可否・時期・治療継続の判断は、必ず事前に主治医と相談したうえで行ってください。
姉妹サービスのご案内
がんと向き合う方・その家族の相談は、姉妹組織のCancerWithオンラインがん相談が役立つかもしれません。治療の悩み、生活の不安、家族の気持ちなど、医療者・経験者を含む相談員がお話を伺います。