オランダの高度人材ビザ、英語の Highly Skilled Migrant、オランダ語の kennismigrant で転職するとき、日本人が最初に誤解しやすいのは「ビザを持っている本人が、そのまま次の会社へ移れる」という感覚です。日本の就労系在留資格では、職種と在留資格の対応を中心に考える場面が多いため、会社を変えても同じ資格ならよいと受け止めがちです。オランダの高度人材ビザでは、本人の能力だけではなく、雇用主がINDの認定スポンサーであること、給与が転職時点の基準を満たすこと、変更がIND側で正しく扱われることが重要になります。

この記事は、2026年6月15日時点で確認できるINDとRVOの公式情報をもとに、日本人がHSMのまま転職するときに見るべき実務上の順番を整理します。個別の可否は、雇用契約、年齢、給与項目、過去の在留歴、家族帯同、退職理由、カードの有効期限により異なります。この記事は一般情報であり、法律助言ではありません。最終判断はIND公式ページ、新旧の雇用主、必要に応じて資格を持つ専門家に確認してください。

まず結論: HSM転職は「スポンサーの差し替え」と考えます

高度人材ビザの転職で最初に見るべきものは、求人票の年収や職種名だけではありません。新しい雇用主がINDの認定スポンサーであり、そのスポンサーがあなたを高度人材として雇用する前提で動けるかです。INDのHSMページでは、雇用主または研究機関がINDに認定されたスポンサーであること、所得要件を満たすこと、給与が市場水準に合っていることが要件として示されています。

日本語では「高度人材ビザのまま転職」と言いますが、実務の見方としては、今のスポンサーから新しいスポンサーへ責任の所在が移る、と考える方が安全です。自分の在留カードがまだ有効でも、新しい会社が認定スポンサーではない、または新しい雇用契約が給与基準を満たしていない場合、HSMとしての継続に問題が出る可能性があります。

日本の就労ビザ感覚と違う点

日本人にとって分かりにくいのは、「会社が採用したいと言っていること」と「その会社がHSMスポンサーとして動けること」が別だという点です。日本では、会社が雇用契約を出し、本人が在留資格上の活動内容に合っていれば進む、と捉えやすいです。オランダのHSMでは、INDに認定されたスポンサーが申請や変更の入口になります。

そのため、転職活動の早い段階で「このポジションはHSM sponsorship availableですか」と聞くだけでは足りないことがあります。確認したいのは、契約当事者になるオランダ法人がINDの認定スポンサーか、入社予定日に給与基準を満たすオファーになっているか、現職の終了日から新職の開始日までに空白が出るかです。採用担当者が英語で visa sponsorship と言っていても、実際の法人名や給与設計まで見る必要があります。

退職日と入社日は別々に扱います

HSMの転職で重要な日付は、内定日ではなく、現職の契約終了日と新しい雇用契約の開始日です。INDは、仕事を失った場合の求職期間は契約終了日から始まると説明しています。また、雇用主を変更する場合の給与基準は、新しい雇用契約の開始日に適用される金額を見ると案内しています。

たとえば、2026年12月に内定を受け、2027年1月から働く場合、2026年の給与基準だけで安心しない方がよいです。HSMの必要額は毎年1月1日に変わるため、入社日が翌年になると新しい基準が問題になる可能性があります。年末の転職、30歳の誕生日をまたぐ転職、契約開始日が月途中の転職では、日付の確認が特に大事です。

「カードが有効なら働ける」と短絡しないようにします

在留カードがまだ有効だと、本人としては働く権利がそのまま残っているように感じます。INDのHSMページでは、カード裏面の労働許可表示として「高度人材および自営業としての労働は許可、その他の労働はTWVが必要」という趣旨の表示が説明されています。ただし、これはどの会社でも自由に雇用されてよいという意味ではありません。

HSMとして働くなら、雇用主側のスポンサー性と給与要件がつながっている必要があります。副業、自営業、別会社での追加雇用、現職退職後の一時的な契約などは、カードの文言だけで判断しない方が安全です。特に日本からリモートで受けていた仕事、日本法人からの業務委託、オランダ法人との雇用契約が混ざる場合は、在留、労働許可、税務が別々に問題になり得ます。

新しい会社がIND認定スポンサーかを先に確認します

転職先を検討するとき、最初の分岐は「その会社が認定スポンサーか」です。INDの公開登録では、認定スポンサーをカテゴリごとに確認できます。HSMの場合は、仕事カテゴリの公開登録を見るのが基本です。公開登録は月1回更新と説明されているため、登録直後の会社では掲載タイミングに差が出る可能性がありますが、少なくとも会社側が認定状況を具体的に説明できるかは重要な判断材料になります。

RVOが運営するBusiness.gov.nlも、EU、EEA、スイス以外の高度人材を90日超で雇う場合、組織が認定スポンサーである必要があると説明しています。日本国籍者はEU/EEA市民ではないため、ここでは「日本人だから短期滞在で入りやすい」という感覚を切り離して考える必要があります。

会社名は求人票ではなく契約書の法人名で見ます

日本人が見落としやすいのは、求人票やLinkedInに表示されるブランド名と、雇用契約の法人名が違うことです。グローバル企業では、親会社、採用主体、給与支払い法人、オランダ現地法人が分かれていることがあります。INDの公開登録で確認すべきなのは、あなたと雇用契約を結び、給与を支払う法人名です。

たとえば、日本で知られているブランドがオランダで別法人名を使っていることがあります。採用面接で「we sponsor visas」と聞いていても、契約書の雇用主名が認定スポンサー公開登録にあるかを確認してください。登録名のスペル、B.V.などの法人形態、グループ内のどの会社がスポンサーになるのかを揃えて見ると、後からの行き違いを減らせます。

採用代理店やEORを挟む場合は慎重に見ます

採用代理店、派遣会社、Employer of Record、グループ外のペイロール会社を挟む場合は、HSMスポンサーの主体が誰なのかを確認する必要があります。給与を支払う会社、日々の指揮命令をする会社、INDに対してスポンサーとして登録される会社がずれていると、本人の感覚では「採用された」のに、在留資格上の説明が複雑になることがあります。

この場合に聞くべき質問は、「私のHSMの認定スポンサーとしてINDに登録される法人名は何ですか」「雇用契約上の雇用主はどの法人ですか」「給与はどの法人から本人名義の口座へ毎月支払われますか」です。これらに明確に答えられない内定は、給与額が魅力的でも、入社日を決める前に追加確認した方がよいです。

認定スポンサーには通知と記録の義務があります

INDは、認定スポンサーには情報提供義務、記録保管義務、注意義務などがあると説明しています。変更が在留許可やスポンサー認定に影響する場合、通常は一定期間内にINDへ通知する必要があります。本人側にも、状況変更をスポンサーへ伝える義務が関係します。

これは単なる会社側の事務ではありません。本人から見れば、退職日、入社日、給与額、勤務時間、契約期間、住所変更、家族帯同の有無などを、会社の移民担当者に早めに共有する必要があるということです。日本の転職では、内定承諾後に人事へ書類を出せば足りる感覚がありますが、オランダのHSMでは、在留資格に影響する情報が雇用主のスポンサー義務とつながっています。

給与基準は「転職先の開始日」で見直します

HSM転職で最も実務的な落とし穴は、給与基準です。INDの所得要件ページでは、HSMの必要額は毎年1月1日に変わり、雇用主を変更する場合は新しい雇用契約の開始日に適用される必要額を満たす必要があると説明されています。つまり、内定をもらった日や面接を受けた日の基準ではなく、入社日の基準で見る必要があります。

2026年のHSM給与基準として、INDは30歳以上の高度人材を月額グロス€5,942、30歳未満を月額グロス€4,357、減額給与基準に該当する場合を月額グロス€3,122と示しています。これらは2026年6月15日時点で確認できる金額です。将来の転職では、必ずその年のIND公式ページを確認してください。

30歳前後では「昔の基準が続く」と決めつけないようにします

30歳前後の転職は、日本人からの相談で特に誤解が起きやすい部分です。初回のHSM許可が30歳未満基準だったとしても、転職時にその基準が自動的に続くとは限りません。INDの表では、雇用主変更時の年齢や過去の変更時期により、30歳未満基準を使えるか、30歳以上基準になるかが分かれます。

実務上は、「私は最初に29歳でHSMになったので、今後も€4,357基準です」と自分だけで判断しない方が安全です。30歳を過ぎてからスポンサーを変える場合、30歳以上の基準を前提に確認する必要が出ることがあります。給与が境界線に近い場合は、オファーの月額グロス、休暇手当の扱い、開始日、誕生日、過去のスポンサー変更の有無をまとめて、雇用主の移民担当者に確認してください。

休暇手当、賞与、RSUはそのまま足し込まないようにします

日本の求人票では、年収に賞与、手当、株式報酬、見込み残業代が含まれることがあります。一方、INDのHSM給与基準では、含められる給与項目と含められない給与項目があります。契約に明記され、本人名義の銀行口座へ毎月支払われる固定手当などは条件により含められることがありますが、休暇手当、現物給付、不確実で定期的ではない残業代やチップなどは含めない扱いです。

オファーレターに「annual gross salary including 8% holiday allowance」と書かれている場合、日本人の感覚では総年収が高く見えます。しかし、HSM基準では休暇手当込みの総額だけで判断しない方が安全です。月額グロスの基本給が基準を満たすか、固定手当を含める場合は毎月支払いか、RSUやボーナスが不確実な要素として扱われないかを分けて確認してください。

減額給与基準は「若手割引」ではありません

月額€3,122の減額給与基準は、若い人なら誰でも使える制度ではありません。INDは、orientation year for highly educated persons、卒業日や博士号取得日から一定期間内の申請、研究滞在からの切替など、条件を限定しています。日本の大学を卒業している、若手のエンジニアである、給与がスタートアップ水準である、といった事情だけでは足りない可能性があります。

日本人で該当しやすいのは、オランダの大学や対象となる高等教育機関を卒業後、orientation yearからHSMへ切り替える場合などです。減額基準を使う前提の内定では、卒業日、博士号取得日、orientation yearの在留歴、申請日、新しい契約開始日を時系列で整理してください。会社側が「reduced salary criterionで進めます」と言っていても、本人の在留歴が条件に合うかは別問題です。

退職から入社までの空白は求職期間とカード期限で見ます

HSM転職では、現職の最終勤務日と次の入社日の間に空白が出ることがあります。INDのHSMページでは、在留許可がまだ有効な間に仕事を失った場合、新しい仕事を探す期間があると説明されています。2026年6月時点のINDページでは、求職期間は最大3か月と案内されています。在留期間の長短によって6か月に延長される規定はHSM許可には存在しません(EU Blue Cardは別制度)。ただし、この期間は在留許可の有効期限を超えられません。

ここで大切なのは、求職期間が「休暇期間」ではなく、新しいスポンサーに登録されるまでの移行期間だという点です。INDは、求職期間が終わっても新しい雇用主に登録されていない場合、在留許可を取り消す可能性があると説明しています。新しい仕事が口頭で決まっていても、認定スポンサーとの契約と手続きが進んでいなければ安心材料としては弱いです。

最終出社日ではなく契約終了日から数えます

日本の転職では、有給消化、最終出社日、退職日を分けて話すことがあります。オランダでも同じように、実際にオフィスへ行く最後の日と契約上の終了日が違うことがあります。INDの求職期間は契約終了日から始まると説明されているため、最終出社日だけで逆算しないようにします。

たとえば、6月15日が最終出社日でも、契約終了日が6月30日なら、在留上の計算では6月30日が重要になる可能性があります。反対に、ガーデンリーブや即時解雇のように、働かない期間があっても契約が続いている場合と、契約そのものが終わっている場合では扱いが異なり得ます。退職合意書、termination agreement、雇用契約の終了日を必ず確認してください。

カード期限が短いと求職期間も短くなります

INDは、求職期間は在留許可の有効期限より長くならないと説明しています。つまり、理論上は3か月の余地があっても、在留カードの期限が1か月後なら、その範囲に圧縮される可能性があります。これは日本人が見落としやすい点です。カードの有効期限が遠い人と、更新直前の人では、同じ退職でも動ける時間が違います。

転職と更新が重なる場合は、難易度が上がります。新しい雇用主が認定スポンサーで、給与基準を満たす契約を出せるとしても、カード期限、更新申請、雇用主変更が同時に動くためです。こうしたケースでは、内定承諾前に「更新も新スポンサーが対応するのか」「現スポンサーで更新してから移るのか」「入社日を前倒しできるのか」を確認した方が現実的です。

通知義務は「会社任せ」にしすぎないようにします

INDのスポンサー義務ページでは、スポンサーや認定スポンサーが、在留許可やスポンサー認定に影響する変更をINDへ通知する必要があると説明されています。また、本人側にも状況変更を知らせる義務があります。高度人材本人に関しては、INDのHSMページでも、従業員には情報提供義務が関係すると説明されています。

実務では、現職が退職をINDへ通知し、新職があなたを新たなHSMとして扱う流れになります。ただし、本人が「会社がやってくれるはず」と考えて放置すると、退職日、新入社日、給与設計、住所変更、家族の状況が人事に伝わっていないことがあります。通知そのものを本人が代行するという話ではなく、必要情報を新旧の雇用主に正確に渡し、手続き状況を確認する姿勢が大事です。

日本人特有の注意点はMVV免除、家族、オファー比較です

日本人のHSM転職では、国籍による扱いと、家族や税務の実務を分けて考える必要があります。INDのMVVページでは、日本国籍者はMVVが不要な国籍に含まれています。MVVは長期滞在のための入国査証ですが、MVVが不要であることと、HSMの在留許可やスポンサー手続きが不要であることは別です。

短期滞在でオランダに入りやすい日本人ほど、「入国できる」と「HSMとして働ける」を混同しがちです。転職で重要なのは、入国査証の有無ではなく、オランダ国内での在留許可、雇用主の認定スポンサー性、給与基準、雇用開始日です。日本からオランダへ移る初回転職でも、オランダ国内で会社を移る転職でも、この整理は変わりません。

家族帯同は本人のスポンサー変更に連動し得ます

配偶者や子どもが帯同している場合、本人のHSMが安定していることは家族の在留にも影響し得ます。Business.gov.nlは、90日を超えて滞在する高度人材には本人だけでなく配偶者や扶養家族にも在留許可が必要だと説明しています。転職で本人の雇用が途切れる場合、家族のカード期限、学校、保険、住民登録、収入要件への影響も一緒に見てください。

特に、配偶者が働いている、子どもの学校が始まっている、住宅契約が本人名義になっている場合、HSM本人の転職は家族全体の生活設計に直結します。家族の在留許可がどのスポンサー関係に基づいているか、カード期限が本人と同じか、更新が近いかを確認しておくと、内定承諾後の慌ただしさを減らせます。

30% rulingとHSM給与基準は別に確認します

オランダの転職では、30% rulingの話が給与交渉とセットで出ることがあります。Business.gov.nlは、HSMの在留許可が認められた場合、条件により30% facilityを利用できる可能性があると説明しています。ただし、30% rulingは税務上の制度であり、HSMの給与基準そのものではありません。

オファー比較では、「30% ruling後の手取りが十分だから、グロス給与は低めでもよい」と判断しないようにします。HSMで見るべき給与基準は、税優遇後の手取りではなく、契約上の月額グロスやINDが認める給与項目です。30% rulingの適用可否、課税対象額、HSM給与基準、家族の収入見込みは、それぞれ別の論点として確認してください。

内定承諾前に確認したい質問

内定を受ける前に、少なくとも次の質問を会社へ投げておくと、後からの手戻りを減らせます。雇用契約上の法人名は何か、その法人はINDの認定スポンサーか、HSMとしてINDへ登録または申請する担当は誰か、新しい契約開始日はいつか、月額グロス給与はいくらか、休暇手当や賞与を除いて給与基準を満たすか、30歳基準または減額基準の根拠は何か、現職終了日から入社日までの空白をどう扱うか、家族帯同の手続きも同時に見るか、という順番です。

私自身もオランダ移住の情報を追う中で、制度の説明より「誰がスポンサーとして責任を持つのか」が一番見落とされやすいと感じます。日本人の転職では、面接の評価や年収交渉に意識が寄りがちですが、HSMでは認定スポンサー、開始日、給与項目、カード期限を同時に見る方が結果的に安全です。内定が魅力的でも、スポンサー変更の土台が曖昧なまま退職日を決めないことが、最大の防御になります。

最後に、HSM転職は「会社が変わるだけ」の手続きではありません。新しい会社が認定スポンサーとしてあなたを受け入れ、入社日の給与基準を満たし、退職から入社までの空白が在留許可の範囲に収まり、必要な変更がIND側で扱われることで初めて安定します。転職活動では、オファーの条件だけでなく、スポンサー変更の実務を早めに確認してください。