オランダの高度人材ビザは、日本人が現地企業へ転職・就職して移住する場合の代表的なルートです。英語では Highly Skilled Migrant、オランダ語では kennismigrant と呼ばれます。日本語では「高度人材ビザ」「知識移民ビザ」と訳されることがありますが、実務上の入口は「INDに認定された雇用主が、給与基準を満たす雇用契約をもとに申請する在留許可」と理解すると整理しやすいです。

この記事では、2026年6月15日時点で確認できるIND公式情報をもとに、2026年の給与ライン、転職時に見るべき開始日、認定スポンサーの確認方法、日本人に関係するMVV免除を整理します。個別案件では雇用契約、家族帯同、過去の在留歴、30% ruling、雇用終了の経緯などで扱いが変わることがあります。最終判断は、IND公式ページと雇用主の移民担当者、必要に応じて専門家に確認してください。

2026年のHSM給与基準は月額で見る

高度人材ビザの給与基準は、INDの「Required amounts income requirements」に掲載されています。2026年のHSMについて、まず押さえるべき金額は月額グロスです。年収で求人票を見ている日本人は、ここで一度月額に直して確認する必要があります。

2026年の主な目安は、30歳以上の高度人材が月額€5,942、30歳未満の高度人材が月額€4,357、減額給与基準に該当する場合が月額€3,122です。European Blue CardはHSMと似て見えますが、制度は別枠です。2026年のBlue Card通常基準は月額€5,942、Blue Cardの減額基準は月額€4,754とされています。

年収に直すときは「休暇手当込み」に注意します

日本語で「年収いくら」と聞くと、賞与や各種手当まで含めた総額を想像しがちです。一方、INDのHSM基準は月額グロスの給与基準として見ます。INDは、給与基準に含められるものと含められないものも示しています。固定手当や13か月目給与のようなものは、契約に明記され、本人名義の口座に毎月支払われるなどの条件を満たす場合にカウントされることがあります。反対に、休暇手当、現物給付、不確実で定期的ではない残業代やチップなどは給与基準に含めない扱いです。

そのため、オファーレターに「annual gross salary including 8% holiday allowance」と書かれている場合は、月額基準を満たしているかをそのまま判断しない方が安全です。単純な感覚値としては、月額€5,942の基準なら12か月分で€71,304、8%休暇手当込みの総額表示に換算すると約€77,009が一つの比較線になります。月額€4,357なら12か月分で€52,284、8%込みの総額表示では約€56,467です。これは計算上の目安であり、実際にINDが見る給与項目は契約書と給与支払いの設計で変わります。

30歳前後の転職では「今の年齢」だけで決めない

HSMで特に誤解が起きやすいのが、30歳前後のラインです。初回申請時に30歳未満であれば、30歳未満の基準が使われます。同じ雇用主で更新する場合は、年齢が上がった後も扱いが続くことがあります。ただし、転職してスポンサーが変わる場合は別です。INDの給与基準ページでは、雇用主変更時には新しい雇用契約の開始日に適用される金額を見る、とされています。

実務では、「29歳で入社したからずっと30歳未満基準でよい」と単純に考えない方が安全です。特に、30歳を過ぎてから別の会社に移る場合、30歳以上ラインで見られる可能性を前提に、内定承諾前にHRまたは移民担当者へ確認してください。給与が境界線に近い場合は、開始日を1日変えるだけで基準年度や年齢区分の扱いが問題になることもあります。

減額給与基準は「若い人向け割引」ではありません

月額€3,122の減額給与基準は、単に年齢が若いから使える制度ではありません。INDは、orientation year for highly educated persons、卒業日や博士号取得日から一定期間内の申請、研究滞在からの切替など、条件を限定しています。日本の大学を卒業しているだけで自動的に減額基準になるわけではありません。

日本人で減額基準を検討するケースは、オランダや対象となる海外高等教育機関を卒業した後にHSMへ切り替える場合などです。該当する可能性がある人ほど、卒業日、博士論文の防衛日、orientation yearの有無、申請日を時系列で整理しておくとよいです。雇用主側が「reduced salary criterionでいける」と言っている場合でも、本人の学歴・在留歴・申請時期が条件に合うかは別途確認が必要です。

認定スポンサーかどうかで申請の入口が変わります

高度人材ビザでは、雇用主がINDの認定スポンサーであることが重要です。INDのHSMページでは、雇用契約の相手がオランダの雇用主または研究機関であり、その雇用主がINDに認定されたスポンサーであることが要件として示されています。認定スポンサーは、INDの公開レジスターで確認できます。

公開レジスターは「会社名の雰囲気」ではなく公式名で探します

日本人が求人を見るとき、LinkedInや採用ページに表示されるブランド名だけで判断しがちです。しかし、INDの公開レジスターに載るのは法的な法人名です。グループ会社、採用代理店、海外本社、オランダ現地法人で名前が違うことがあります。

確認するときは、オファーレターや雇用契約に書かれる雇用主名を見ます。求人票のブランド名ではなく、給与を支払い、契約当事者になる法人です。その法人がINDの「Public register Work」に載っているかを見てください。公開レジスターは月1回更新と説明されているため、認定直後の会社は掲載タイミングにずれが出ることもあります。その場合も、会社側にINDの認定状況を文書で確認するのが安全です。

給与基準を満たしてもスポンサーが違うと進みません

年収が十分に高くても、雇用主がHSMの認定スポンサーでない場合、通常のHSMの申請入口には乗りません。RVOが運営するBusiness.gov.nlも、EU/EEA/スイス外の高度人材を90日超で雇う場合、雇用主は認定スポンサーである必要があると説明しています。

「日本支社で採用され、オランダへ出向する」「オランダ法人ではなく国外法人と契約する」「給与は日本法人から支払われる」といったケースは、HSMではなく企業内転勤、現地雇用、出向契約、税務上の給与支払いなどが絡む可能性があります。この記事の範囲では結論を出せないため、雇用主の移民担当者に、どの法人がスポンサーとして申請するのかを確認してください。

認定スポンサーにも義務があります

認定スポンサーは、単に申請書を出せる会社という意味ではありません。INDは、認定スポンサーに情報提供義務、記録保管義務、注意義務などがあると説明しています。HSMについては、雇用契約、給与明細、毎月の給与支払いを示す資料、必要に応じた追加資料を保管する必要があります。

本人側から見ると、これは「会社がきちんと給与を毎月本人名義口座へ払うか」「契約書に開始日、勤務時間、給与、手当、契約期間が明確に書かれているか」が重要になるということです。口頭での約束や曖昧なボーナス見込みだけでは、在留資格の安定性を支える材料になりにくいです。

転職時は新しい契約開始日と失職時の猶予を分けて考えます

HSMでオランダに滞在している人が転職する場合、見るべきポイントは「給与額」だけではありません。新しい雇用主が認定スポンサーであること、新しい雇用契約の開始日に適用される給与基準を満たすこと、雇用主変更がINDに正しく扱われることが重要です。

基準日は「新しい雇用契約の開始日」です

INDの給与基準ページは、雇用主を変更する場合、新しい雇用契約が始まる日に適用される必要額を満たす必要があると説明しています。これは、日本人にとってかなり実務的な注意点です。たとえば、2026年12月に内定を受けて2027年1月に入社する場合、2026年の給与基準ではなく、2027年1月時点の基準が問題になる可能性があります。

毎年1月1日に金額が変わるため、年末年始をまたぐ転職では特に注意してください。オファー提示時点では基準を満たしていても、入社日が翌年になると新基準で不足することがあります。会社側がHSM採用に慣れている場合でも、本人が年齢区分や減額基準の根拠を把握しておくと、後からの修正交渉がしやすくなります。

失職時の猶予期間は「何もしなくてよい期間」ではありません

INDのHSMページでは、在留許可が有効な間に仕事を失った場合、新しい仕事を探すための期間(zoektermijn)があるとされています。HSM許可においては在留期間を問わず最大3か月が上限であり、在留許可の有効期限を超えることもできません。なお、6か月の猶予はEU Blue Cardの特定条件下の別規定であり、国内法に基づくHSM制度には適用されません。

ここで大事なのは、猶予期間が「自由に休める期間」ではなく、新しい認定スポンサーに登録されるまでの移行期間だという点です。次の雇用主が見つかっても、認定スポンサーでなければHSMの継続にはつながりません。給与基準を満たした契約があり、雇用主側がINDに必要な手続きを進めることが前提になります。

30% rulingはHSMの給与基準とは別の話です

オランダ転職では、30% rulingを同時に話題にされることがあります。Business.gov.nlは、HSMの在留許可が認められた場合、条件により30% facilityを利用できる可能性があると説明しています。ただし、30% rulingは税務上の制度であり、HSMの給与基準そのものではありません。

内定比較では、「30% ruling適用後の手取りが高いから、グロス給与がHSM基準ぎりぎりでもよい」と考えない方が安全です。INDが見る給与基準は税優遇後の手取りではなく、契約と支払いのグロス給与の設計です。税制上の優遇が使えるか、どの給与額を課税対象にするか、HSM基準を下回らないかは、雇用主の給与計算担当や税務専門家と分けて確認してください。

日本人はMVV免除でも在留許可は必要です

日本国籍者に特有の重要な差分として、MVVがあります。INDのMVVページでは、日本国籍者はMVVが不要な国籍の一つとして挙げられています。MVVは長期滞在のための入国査証ですが、これが不要であることと、HSMの在留許可が不要であることは別です。

「ビザなしで入れる」と「働ける」は違います

日本のパスポートでは、短期滞在としてオランダへ入りやすい印象があります。しかし、HSMとして90日を超えて滞在し働くには、雇用主による在留許可の申請が必要です。日本人はMVVのために在外公館で入国査証を受け取る手順が省かれることがありますが、INDの審査、居住許可カード、雇用主のスポンサー手続きは残ります。

そのため、内定が出た後に「日本人はMVV不要だから、先に渡航して働き始めてよい」とは限りません。INDのHSMページでは、肯定的な決定が出た後、居住カードがまだ手元にない場合でも、決定書に記載があれば働き始められるケースが説明されています。実際の開始可否は、雇用主が受け取る決定内容と本人の状況により異なります。

家族帯同も同じタイムラインで確認します

配偶者や子どもを連れて移住する場合、本人のHSMだけでなく、家族の在留手続きも同時に設計する必要があります。家族の申請は雇用主がまとめて扱うことがありますが、必要書類、戸籍・婚姻関係の証明、翻訳やアポスティーユの要否は別に確認が必要です。

日本からの転職では、学校開始日、住居契約、住民登録、健康保険、銀行口座、給与初回支払いのタイミングが重なります。HSMの許可だけを見て航空券を取るのではなく、家族の入国日、本人の勤務開始日、住所登録の時期を一つのカレンダーに並べると、後から詰まりにくくなります。

DAFTや自営業ルートとは混ぜて考えません

HSMは、認定スポンサーに雇用される人の制度です。米国市民向けに語られることの多いDAFTや、日本人が独立する場合に検討する自営業ビザとは、入口も必要書類も違います。日本人がHSMを使う場合の中心論点は、DAFTではなく、雇用主、給与基準、契約開始日、在留許可の申請です。

副業や将来の独立を考えている場合でも、まずはHSMの主たる雇用契約が安定しているかを優先して確認してください。HSMの居住カードには、自営業としての活動が一定範囲で許される旨が記載されることがありますが、雇用主に依存するHSMの条件を満たさなくなれば、滞在の土台自体が揺らぎます。

内定承諾前に日本人が確認したいチェックリスト

HSMの条件は、政府サイトの表を読むだけでは実務に落とし込みにくいです。日本人が転職で確認するなら、給与、スポンサー、開始日、支払い方法、家族、税制を分けて見ます。ここで曖昧なままサインすると、あとから「給与基準には入らない手当だった」「雇用主が認定スポンサーではなかった」「入社日が翌年になり新基準に足りなかった」という問題が起きることがあります。

オファーレターで見る項目

最初に見るのは、契約当事者としての会社名です。採用ページのブランド名ではなく、雇用契約書に書かれる法人名がINDの認定スポンサーかを確認します。次に、月額グロス給与がHSMの該当ラインを超えているかを見ます。年収表記だけの場合は、休暇手当込みか、固定手当が毎月支払われるか、ボーナスや株式報酬が基準に含まれない前提でも足りるかを確認します。

続いて、雇用開始日です。1月1日の基準更新、30歳の誕生日、現職の終了日、居住許可の有効期限が近い場合は、開始日の数日差が実務上大きくなることがあります。契約期間が有期の場合は、在留許可の有効期間も契約期間と連動する可能性があるため、更新前提の口約束ではなく、契約上の期間を見てください。

HRに聞くときの質問例

英語で確認するなら、次のように短く聞くと実務に乗りやすいです。「Which Dutch legal entity will be my employer and recognised sponsor for the HSM application?」「Is the listed gross monthly salary excluding holiday allowance sufficient for the 2026 IND salary criterion?」「Which salary components will be included in the HSM salary calculation?」「Will the HSM application cover my family members as dependants?」のような聞き方です。

日本語にすると、確認したいのは、どのオランダ法人がスポンサーになるか、月額グロス給与が休暇手当を除いて基準を満たすか、固定手当が毎月本人名義口座へ支払われるか、家族の申請も同時に進めるか、という点です。ここに明確に答えられない会社は、HSM採用に慣れていない可能性があります。条件が悪いという意味ではありませんが、スケジュールには余裕を見た方がよいです。

判断に迷うケース

給与が基準を数十ユーロだけ上回る場合、年明け入社、30歳前後の転職、減額給与基準の利用、国外法人からの出向、家族の同時移住が重なる場合は、自己判断で進めない方が安全です。HSMは比較的スピードの早い制度ですが、条件の読み違いがあると入社日、住居契約、学校、引っ越し全体に影響します。

私が日本人の移住相談を見るときも、HSMは「給与が高いから大丈夫」とは見ません。まず、スポンサー法人名、月額グロス、休暇手当の扱い、契約開始日、雇用主変更の有無を並べます。そのうえで、本人の年齢、学歴、過去の在留資格、家族の有無を重ねます。制度の表だけではなく、自分のタイムラインに落とし込むことが、転職時の一番現実的なリスク管理です。

2026年時点のHSMは、30歳以上なら月額€5,942、30歳未満なら月額€4,357、条件を満たす減額基準なら月額€3,122が大きな目安です。ただし、最終的に見るのは「自分の契約開始日に、どの基準が、どの給与項目に対して適用されるか」です。内定が出たら、まずIND公式ページの最新額を確認し、次に雇用主の認定スポンサー登録と契約書の月額給与を照合してください。