要点: オランダのスタートアップビザは「良い事業アイデアがあるか」だけでは足りません。IND と RVO の公式条件では、信頼できる経験豊富なファシリテーターと署名済み契約を結び、本人とファシリテーターの双方が KvK に登録され、RVO がファシリテーター・革新性・段階的事業計画を確認します。日本人は MVV 免除国籍に含まれるため申請入口は比較的作りやすい一方、承認の壁はファシリテーター選定と契約内容にあります。

この記事は、2026年6月15日時点の IND と RVO の公式情報をもとにした一般的な整理です。個別の許可可否は事業内容、契約、資金、家族構成、過去の滞在歴により異なります。最終判断や不服申立てが関わる場合は、IND、RVO、または移民法に詳しい専門家へ確認してください。

ファシリテーターは「紹介者」ではなく審査対象です

オランダのスタートアップビザで最初に押さえるべき点は、ファシリテーターが単なる推薦者や移住エージェントではないことです。IND は「信頼できるメンター、つまりファシリテーターと協働すること」を条件にしており、その協働関係は署名済み契約として文書化されている必要があります。RVO も、ファシリテーターが起業家の具体的なニーズに応じて、経営、マーケティング、研究、投資獲得などを支援する存在だと説明しています。

日本人起業家がつまずきやすいのは、「有名アクセラレーターに名前を載せてもらえば足りる」という感覚です。実際には、RVO はファシリテーターそのもの、事業の革新性、段階的事業計画を見ます。IND は RVO の助言を踏まえて判断するため、ファシリテーターとの契約が形式的だと、事業の中身が良くても弱点になります。

RVO が見るのは支援実績と健全性です

RVO の条件では、ファシリテーターは革新的スタートアップを指導した経験を持ち、財務的に安定している必要があります。さらに、支払停止や破産状態ではなく、債務超過でないことも求められます。これは、起業家を1年間支援する体制があるかを確認するための条件です。

日本の感覚では、知人の経営者、投資家、顧問、既存取引先に「メンター役」を頼めば十分に見えることがあります。しかしオランダのスタートアップビザでは、支援者が制度上の条件を満たすかが別問題です。支援者が善意であっても、スタートアップ支援の実績や財務健全性を示せなければ、ファシリテーターとしては弱い可能性があります。

契約書は「助言します」だけでは足りません

IND は、起業家とファシリテーターの協働が署名済み契約に書かれていることを求めています。ここで重要なのは、契約の存在だけでなく、支援内容の具体性です。月次メンタリング、事業開発、投資家紹介、市場検証、法務・税務の外部専門家紹介、プロダクト改善など、事業の段階に応じた支援が読み取れる形が望ましいです。

一方で、「ビザ取得を保証する」「申請を通すためだけに契約する」といった表現は避けるべきです。ファシリテーターの役割は、在留許可そのものを売ることではなく、革新的事業をオランダで育てる支援です。営利目的の代行斡旋に見える構成にすると、読者にとっても実務上も危ういです。

ファシリテーターはスポンサー企業とは違います

高度人材ビザでは認定スポンサー企業が雇用主として申請を主導することがありますが、スタートアップビザのファシリテーターは雇用主ではありません。起業家本人が事業を行い、ファシリテーターはメンターとして支援します。RVO の申請説明でも、RVO はファシリテーター、革新性、段階的計画について助言し、IND は本人の資金面も確認すると整理されています。

つまり、ファシリテーターが見つかっただけで「就職先が決まった」と考えるのは誤りです。本人は事業の中心で活動する必要があり、IND も株主・資金提供者にとどまらず組織で積極的な役割を担うことを求めています。日本法人の代表者がオランダ法人を作る場合でも、現地で何をするのかを本人の活動として説明する必要があります。

日本人が確認すべきファシリテーター選定の順番

RVO は、条件を満たすファシリテーターのリストを公開しています。このリストに掲載されていることは重要な出発点ですが、掲載されている全機関がすべての日本人起業家に合うわけではありません。地域、業種、支援対象のステージ、大学関係者限定かどうか、投資前提かどうか、プログラム時期などが大きく異なります。

特に日本から準備する場合、最初に「どこが申請を通してくれるか」と探しがちです。しかし実務上は、「自分の事業テーマを本当に伸ばせる支援者か」「1年間の契約に実体があるか」「RVO が読んだときに自然な組み合わせに見えるか」を確認する順番のほうが大切です。

認定リストだけで安心しないことです

RVO のリストには、テック、大学発スタートアップ、アグリフード、宇宙、海事、スポーツ、インパクト、地域開発など、さまざまな支援機関が並んでいます。リスト掲載は制度上の条件を満たしている目安になりますが、あなたの事業を受け入れる義務までは意味しません。各ファシリテーターは独自の選考基準を持ち、支援対象を限定することがあります。

たとえば、AI SaaS、医療周辺、教育、食品、ハードウェア、地域課題解決では、評価される材料が変わります。日本市場との接続を強みにするなら、オランダ側にとっての付加価値を説明できるファシリテーターが必要です。日本人であること自体は強みではなく、日本語、商習慣、日本企業ネットワーク、対日展開の具体性に変換して初めて材料になります。

先に事業の仮説を1枚にまとめます

問い合わせ前には、長い事業計画書よりも、1枚で伝わる仮説資料を用意するほうが現実的です。何を作るのか、顧客は誰か、なぜオランダでやるのか、なぜ今なのか、既に何を検証したのか、1年後に何を達成するのかを短く書きます。ファシリテーターはビザ担当者ではなく事業支援者なので、最初の関心は「支援する価値がある事業か」です。

日本語の企画書を英訳するだけでは、読み手に伝わりにくい場合があります。オランダや欧州の市場で何が未解決なのか、日本の実績をどのように欧州市場へ持ち込むのか、データや顧客候補で示す必要があります。抽象的な「日本品質」「おもてなし」「海外進出支援」だけでは、革新性の説明として弱いです。

返信が遅い前提で候補を複線化します

ファシリテーター探しは、予想より時間がかかることがあります。RVO のリストに載っていても、募集時期が決まっている、特定分野のみ受ける、既存ネットワーク経由を重視する、大学関係者に限定するなどの事情があります。日本から問い合わせる場合は時差もあり、メール1通で進む前提にしないほうが安全です。

ただし、同じ内容を大量送信するのは逆効果です。候補ごとに、なぜその機関に合うのかを短く書き分けます。ファシリテーター側から見ると、ビザ目的だけの問い合わせと、事業成長のための問い合わせは文面でかなり違って見えます。日本人起業家は丁寧な資料を作るのが得意な一方、初回文面が長すぎることがあるため、最初は要点を絞るのが目安です。

資本関係と家族関係は早い段階で整理します

RVO と IND の公式条件で見落とされやすいのが、ファシリテーターとの利害関係です。ファシリテーターは、スタートアップ会社の過半数持分を持つことができません。また、起業家の子、親、祖父母、おじ、おばなど、三親等までの家族関係にあたる人はファシリテーターになれません。さらに、ファシリテーター組織内に代理担当者がいることも IND 側の条件に含まれます。

日本人の創業では、家族会社、親族出資、知人投資、既存法人の子会社化が珍しくありません。だからこそ、スタートアップビザでは早い段階で資本関係と関係者一覧を整理しておくべきです。後から契約書だけ整えるより、最初に「誰が何を持ち、誰が何を支援するのか」を図にしておくほうが安全です。

過半数持分を持つ支援者はファシリテーターに向きません

ファシリテーターが事業会社の過半数持分を持つと、制度上の条件に合いません。これは、支援者が実質的に会社を支配し、起業家本人が主体的に事業を運営していない状態を避ける趣旨だと考えられます。投資を受けること自体が否定されているわけではありませんが、支援と支配が近づきすぎると説明が難しくなります。

日本からの移住では、「現地パートナーに株式を多く持ってもらえば安心」と考えるケースがあります。しかしスタートアップビザでは、安心材料に見える構造が逆に弱点になることがあります。投資契約、株主間契約、メンタリング契約は役割を分けて考えるのが目安です。

親族・既存法人・取引先の扱いを分けます

家族がオランダにいる場合や、親族が欧州で会社を持っている場合でも、三親等までの家族はファシリテーターにできません。親族がオフィスを貸す、生活を支援する、事業資金を貸すことと、制度上のファシリテーターになることは別です。親族支援を受けるなら、その範囲を明確にし、ファシリテーター契約とは切り分けるほうがよいです。

既存の日本法人がある場合も同じです。日本法人が資金を出す、顧客基盤を提供する、知財を保有することはあり得ますが、それだけではオランダ側のファシリテーター要件を満たしません。RVO が見たいのは、オランダでの革新的事業を支える経験豊富なメンター体制です。

代理担当者の有無も確認します

IND の条件には、ファシリテーター組織内に代理担当者がいることが含まれています。小さな支援組織や個人に近い形の支援者の場合、ここが盲点になります。担当者が病気、退職、長期休暇になったときに支援が止まる体制では、1年間のメンタリングとして不安が残ります。

契約前の確認では、主担当者だけでなく、代理担当者、面談頻度、連絡方法、成果物、途中解約条件、費用、支援範囲を見てください。日本人側は「失礼にならないように細かく聞かない」傾向がありますが、在留許可に関わる契約では遠慮しすぎないほうが安全です。

ファシリテーター要件は事業計画と一体で見られます

スタートアップビザでは、革新的な商品・サービス、段階的事業計画、本人の積極的役割、KvK 登録、資金要件も確認されます。つまりファシリテーター要件だけを満たしても、事業計画が弱ければ十分ではありません。反対に、事業計画が魅力的でも、ファシリテーターがその計画を支援できる説明になっていなければ、全体の説得力が落ちます。

IND は、会社がオランダにとって新しい商品・サービス、新しい技術、新しい働き方や組織化を含む場合に革新性を見ます。RVO はファシリテーター、革新性、段階的計画について助言します。ここでの「革新性」は、世界初でなければならないという意味ではなく、オランダ市場での新規性や改善の意味合いを含みます。

1年間のロードマップと支援内容を対応させます

スタートアップビザは最大1年の一時的な在留許可です。そのため、事業計画では「1年後に何ができているか」が重要になります。プロダクト検証、顧客獲得、法人・税務・銀行まわり、市場調査、投資家面談、採用準備などを月次または四半期で整理し、それぞれにファシリテーターがどう関わるかを書くと自然です。

たとえば、日本向けSaaSを欧州展開するなら、オランダ法人の役割、欧州顧客の検証方法、GDPRや契約実務への対応、販売チャネル、ファシリテーターから受ける市場アクセス支援をつなげます。日本で売れているサービスを単に「オランダでも売る」と書くだけでは、なぜオランダなのかが薄くなります。

KvK 登録は「いつ・誰が・どの形で」を詰めます

IND の条件では、起業家本人とファシリテーターが KvK の商業登記に登録されている必要があります。日本人は MVV 免除国籍に含まれるため、RVO の申請説明でも日本国籍者は直接 IND に申請できるとされています。ただし、実際に会社をいつ設立し、どの法人形態にし、誰が代表者になり、どの住所を使うかは別問題です。

オランダでの起業形態には、個人事業に近い eenmanszaak や B.V. などがあります。スタートアップビザでは革新性と成長性を示す必要があるため、投資、株式、知財、従業員計画がある場合は B.V. のほうが説明しやすいケースもあります。一方で、費用や会計負担は条件により異なります。法人形態は税務にも関わるため、ここでは断定せず、申請前に最新の制度と専門家確認を行うのが安全です。

資金要件はファシリテーター任せにしないことです

IND は、起業家がオランダで居住・生活するための十分な資金を持つことを求めています。IND のスタートアップ説明では、本人が十分な残高を示す方法と、ファシリテーターが滞在資金を出す方法が示されています。本人が示す場合は、オランダの個人口座または事業口座の残高が基本とされ、開設できない場合の代替として、オランダの代理人による口座や公証人の第三者口座が挙げられています。

日本から準備する人にとって、ここは実務上の難所です。日本の銀行残高だけで足りると考えると、公式説明とのずれが出る可能性があります。資金要件は金額だけでなく、どの口座で、誰の名義で、いつから利用可能かが見られます。ファシリテーターが資金を出す場合も、契約内容と実際の資金証明が整合している必要があります。

申請前チェックリストと日本人向けの注意点

最後に、日本人起業家が申請前に確認すべき項目を、実務の順番に並べます。スタートアップビザは、日本人にとって「MVV が不要なので簡単」という制度ではありません。たしかに IND の MVV 公式ページでは、日本国籍は MVV 不要国に含まれます。RVO も、日本国籍者は直接 IND に申請できると説明しています。しかし、審査の中心はファシリテーター、革新性、段階的計画、資金、登記の整合性です。

まず、RVO のファシリテーターリストで候補を確認します。次に、自分の事業テーマと候補の支援領域が合うかを見ます。その後、1枚の事業概要、1年間のロードマップ、本人の役割、資本関係、資金証明の方針を用意し、候補へ問い合わせます。契約書を先に急ぐより、支援内容と事業計画の対応を作るほうが大切です。

DAFT と混同しないことです

オランダ移住の情報を検索すると、米国市民向けの DAFT 情報が多く出てきます。しかし日本人のスタートアップビザは、DAFT を主軸に考える制度ではありません。日本国籍者に関係する別の条約や自営業ルートはありますが、この記事の主題であるスタートアップビザでは、RVO と IND が示すスタートアップ向け要件を満たす必要があります。

「起業家なら DAFT と同じように資本金だけでいける」と理解すると危険です。スタートアップビザは、ファシリテーターとの支援契約、革新性、段階的計画、本人の積極的役割が中核です。米国人向け記事を日本人向けに読み替えると、必要書類や審査観点を外す可能性があります。

問い合わせ文面は「ビザ目的」より「事業成長」を前に出します

ファシリテーターに最初に送る文面では、「オランダのスタートアップビザを取りたいです」だけでは足りません。相手が知りたいのは、どの市場課題を解くのか、なぜあなたがそれをできるのか、なぜオランダで行うのか、ファシリテーターが支援する意味があるのかです。

日本人起業家の場合、日本での実績や顧客基盤を持っていることがあります。その強みは、数字と事例に置き換えると伝わりやすくなります。日本での売上、ユーザー数、実証実験、企業連携、知財、チーム構成、欧州展開の仮説などです。反対に、構想段階だけで実績が薄い場合は、1年以内に検証する仮説を具体化する必要があります。

最後は「整合性」で見直します

提出前の見直しでは、各書類が同じ物語を語っているかを確認してください。ファシリテーター契約ではマーケティング支援が中心なのに、事業計画では技術開発支援が中心になっている。資本政策ではファシリテーターが大きな持分を持つのに、契約書では独立したメンターのように書かれている。日本法人の実績を強調しているのに、オランダでの本人の役割が薄い。こうしたずれは、単独では小さく見えても、審査全体では不自然さになります。

スタートアップビザの承認の壁は、書類の量ではなく、ファシリテーター、事業、本人、資金、登記が一つの説明としてつながるかです。日本人にとっては、MVV 免除という入口の軽さより、オランダ側の支援者と一緒に1年間で何を実現するのかを示す力が重要になります。申請直前には必ず IND と RVO の最新ページを確認し、条件変更やリスト更新を反映してください。