オランダへ移住したあとも、日本側の税務が完全に終わるとは限りません。日本に賃貸中のマンションがある、日本法人から配当を受ける、日本の証券口座に配当や分配金が残る、出国年の途中まで日本で給与や事業収入があった、という人は、日本の非居住者になったあとも日本側で確認すべき所得が残ることがあります。
この記事は、日本人がオランダ在住中に「日本の確定申告をまだ出す必要があるのか」を判断するための整理です。税額計算を代行するものではなく、個別の結論は所得の種類、出国日、納税管理人の有無、租税条約、証券会社や不動産管理会社の実務により異なります。迷う場合は、国税庁の公式情報と税務署、または国際税務に詳しい税理士へ確認する前提で読んでください。
私自身も2025年に日本からオランダへ移住したとき、「住民票を抜いたら日本の税務は終わり」と単純化しないほうがよいと感じました。生活の本拠はオランダへ移っても、日本国内に資産や支払元が残ると、確定申告、源泉徴収、納税管理人、オランダ側の国外所得申告が別々に動きます。最初に分けるべきなのは、「日本の居住者か非居住者か」と「所得が日本国内源泉所得に当たるか」です。
まず居住者と非居住者を分けて考える
日本人がオランダへ移住するとき、税務の出発点は国籍ではなく居住者区分です。国税庁は、1年以上の予定で海外勤務などに出る場合、一般的には日本国内に住所を有しない者と推定され、所得税法上の非居住者になると説明しています。つまり、日本国籍のままでも、税務上は日本の非居住者として扱われることがあります。
日本国籍と日本の税務居住者は同じではありません
日本人であっても、日本の所得税で常に全世界所得を申告するわけではありません。日本の居住者であれば、原則として国内外の所得が日本側の課税対象になります。一方、非居住者になると、日本で課税対象になるのは主に日本国内で生じた一定の所得です。ここを混同すると、オランダで得た給与や事業所得まで日本に申告するのか、日本の不動産収入だけを見ればよいのかが分からなくなります。
オランダ移住者の場合、住民票の転出、オランダでの住民登録、賃貸契約、家族の移動、勤務場所、事業拠点などが実態として重なります。ただし、税務上の居住者判定は形式だけで決まるものではなく、生活の本拠や滞在予定などを総合して見る場面があります。出国日だけで機械的に判断せず、年度をまたぐ移住では特に慎重に整理するのが安全です。
出国年は二つの期間に分けます
日本を出た年は、1月1日から出国日までの居住者期間と、出国日の翌日から12月31日までの非居住者期間に分けて考えます。出国前に日本で給与、事業、不動産、譲渡、配当などがあった場合、その年の申告では居住者期間の所得と非居住者期間の国内源泉所得が同じ年の中に混ざることがあります。
国税庁の説明では、出国時までに納税管理人を指定した場合、翌年の通常の確定申告期間に、納税管理人を通じて申告や納税をする流れが示されています。納税管理人を指定しないで出国する場合は、出国日までに準確定申告が必要になる場合があります。それでも非居住者期間に国内源泉所得が発生するなら、後日あらためて申告が必要になることがあります。
納税管理人は郵便受けではなく実務窓口です
納税管理人は、海外在住者に代わって確定申告書の提出、税務署からの書類受け取り、納税や還付金の受け取りなどを行う人です。法人でも個人でも構いませんが、名前だけ借りる相手ではなく、税務署からの書類を確実に受け取り、期限を共有できる相手である必要があります。
日本を離れる前に決めておくと、出国年の申告、還付、税務署からの照会に対応しやすくなります。出国後に国内源泉所得が続く見込みがあるなら、納税管理人の届出をどの税務署へ出すか、誰が郵便を受けるか、マイナンバーや本人確認書類をどう扱うかを早めに整理したほうが実務は楽です。
国内不動産がある場合は源泉徴収と確定申告を分ける
日本国内にマンションや戸建てを残してオランダへ移住する人は、不動産所得が最も分かりやすい日本側論点になります。非居住者であっても、日本国内にある不動産の貸付けによる所得は、日本国内で生じた所得として扱われることがあります。したがって、賃貸収入があるなら「海外在住だから日本の確定申告は不要」とは言い切れません。
家賃収入は国内源泉所得として見ます
国税庁は、海外勤務などで非居住者になった人に、日本国内の不動産貸付けによる所得などの国内源泉所得があるときは、日本で確定申告が必要になる場合があると説明しています。年を通じて海外にいる場合でも、国内源泉所得があり、その所得金額が一定の基準を超えると、原則として翌年の確定申告期間に納税管理人を通じて申告する流れになります。
ここで大事なのは、家賃の総額ではなく、不動産所得としての所得金額を見ることです。賃貸収入から、管理手数料、修繕費、固定資産税、損害保険料、減価償却費、ローン利息の一部など、条件に応じて必要経費を整理します。何が必要経費になるかは物件の使い方や契約内容で変わるため、証憑を残し、雑に合算しないことが重要です。
源泉徴収20.42パーセントは最終税額とは限りません
非居住者が日本国内の不動産賃貸料を受け取る場合、原則として支払時に20.42パーセントの源泉徴収が行われる場面があります。ただし、借主が個人で、自己または親族の居住用として借りる場合など、源泉徴収の扱いが異なるケースもあります。管理会社を通している場合でも、誰が支払者で、どの名義で源泉徴収されているかを確認する必要があります。
源泉徴収されたから確定申告が不要、または源泉徴収された税額が必ず最終税額、とは限りません。必要経費を反映した結果、源泉徴収税額が実際の税額より大きい場合には、申告により還付を受けられることがあります。逆に、源泉徴収がされていないから税務が存在しないわけでもありません。源泉徴収と確定申告は別の手続きとして見たほうが安全です。
売却や住宅ローン控除は別論点です
賃貸収入と不動産売却は、同じ「国内不動産」でも税務上の整理が違います。売却がある場合は譲渡所得、取得費、譲渡費用、居住用財産の特例、非居住者への支払い時の源泉徴収など、別の確認が必要です。この記事では賃貸収入を中心にしていますが、売却予定がある人は売却前に確認するほうがよいです。
住宅ローン控除も、海外転勤ややむを得ない事情がある場合に一定の扱いがあり得ますが、本人や家族の居住実態、再居住、控除期間などで条件が変わります。オランダへ長期移住する人は、購入時の前提と変わるため、移住前に税務署や税理士へ確認しておくと後から慌てにくくなります。
日本株配当・投資信託分配金は源泉徴収と条約を確認する
日本の証券口座や日本法人からの配当が残る場合、不動産とは別の見方が必要です。非居住者が内国法人から受ける配当は、国内源泉所得として源泉徴収の対象になることがあります。国税庁の源泉徴収税率の説明では、上場株式等の配当等は15.315パーセント、それ以外の配当等は20.42パーセントが示されています。ただし、一定以上の持株割合や投資信託の種類などにより扱いが変わることがあります。
源泉徴収あり口座の感覚をそのまま使わない
日本在住時は、特定口座や源泉徴収あり口座に任せていれば、上場株式の配当や譲渡益の税務をかなり自動化できた人も多いと思います。しかし、非居住者になると、証券会社が口座維持を制限したり、取引を停止したり、配当の扱いを変えたりすることがあります。税法上の扱いだけでなく、証券会社の約款や非居住者対応も別途確認が必要です。
特に日本人がオランダへ移る場合、日本側では非居住者、オランダ側では税務上の居住者として扱われる可能性があります。日本で源泉徴収された配当を、オランダ側の所得税申告でどう入力するか、二重課税の軽減対象になるか、Box 2やBox 3に関係するかは、保有割合や資産区分により変わります。日本側だけで完結させず、オランダ側の申告資料としても明細を保管するのが現実的です。
租税条約は自動適用とは限りません
日本とオランダの間には租税条約があり、配当、利子、使用料などについて国内法と異なる扱いが定められることがあります。ただし、国税庁の説明では、租税条約による税率の軽減や免除を受けるには、原則として支払日の前日までに租税条約に関する届出書等を支払者経由で税務署へ提出する流れが示されています。
つまり、「オランダに住んでいるから自動的に低い税率になる」とは考えないほうがよいです。証券会社、配当支払者、信託銀行、勤務先持株会など、どこを経由して配当を受けているかにより、届出の可否や必要書類が変わることがあります。条約適用を考える場合は、支払前に確認するのが基本です。
配当控除や外国税額控除は居住者時代と同じとは限りません
日本在住時に使っていた配当控除、総合課税、申告分離課税、外国税額控除の考え方を、非居住者になった後へそのまま持ち込むと誤解が起こりやすいです。非居住者の所得控除や税額控除は、居住者とは範囲が異なる場面があります。国税庁も、海外勤務中に不動産所得などがある場合の所得控除や税額控除について、居住者期間と非居住者期間を分けた説明をしています。
実務では、配当の支払日、居住者区分、証券口座の種別、源泉徴収税額、条約届出の有無を一覧化します。日本側で申告が必要か、源泉徴収で完結するのか、還付請求や条約届出を検討するのかは、配当の種類ごとに分けて確認すると整理しやすくなります。
オランダ側申告では日本の所得を隠さず二重課税を確認する
オランダへ移住したあと、日本側の確定申告だけを見ていると、もう一つの重要な視点を落とします。オランダ税務当局は、オランダに住む人が国外から所得を得ている場合、原則としてオランダ所得と国外所得を合わせた全世界所得を申告する説明をしています。ただし、同じ所得に常に二重で課税されるという意味ではなく、租税条約や二重課税軽減の仕組みを確認します。
日本で申告したからオランダで不要とは限りません
日本の不動産収入や配当について、日本で源泉徴収や確定申告を済ませたとしても、それだけでオランダ側の申告資料から消えるとは限りません。オランダに税務上居住している場合、国外所得や国外資産を申告フォーム上で入力し、どの国で課税権があるか、二重課税軽減が使えるかを確認する流れになります。
Belastingdienstは、複数国に所得がある場合、二つの国で申告が必要になることはあっても、同じ所得に必ず二重で税金を払うという意味ではないと説明しています。ここは安心材料ですが、同時に「申告しなくてよい」という意味ではありません。日本側の納税証明、源泉徴収明細、確定申告書控え、賃貸収支の資料を保管し、オランダ側の申告に備える必要があります。
為替、年度、所得区分をそろえます
日本の確定申告は暦年、オランダの所得税申告も基本的には暦年で整理しますが、移住初年度は出国日、入国日、居住開始日、M-formの扱いなどで確認項目が増えます。円建ての家賃収入や配当をユーロでどう換算するかも、申告上の重要な実務になります。毎月の為替を使うのか、支払日のレートを使うのか、年平均を使えるのかは、申告内容や専門家の方針により異なることがあります。
日本人にありがちな落とし穴は、日本側の分類をそのままオランダ語のBoxへ直訳してしまうことです。不動産収入、配当、証券資産、事業所得、年金は、国により分類と課税方法が違います。日本側で不動産所得と呼ぶものが、オランダ側でどの入力欄に入るかは単純ではありません。金額だけでなく、所得の性質、発生日、源泉地、日本で支払った税額をセットで整理します。
二重課税の軽減は証拠資料が前提です
二重課税の軽減を受けるには、どの所得がどの国で課税されたかを説明できる資料が必要になります。日本の確定申告書控え、収支内訳書、源泉徴収票や支払通知、配当金計算書、納付書、還付通知、税務署からの通知などを、年度ごとにまとめておくと後で確認しやすいです。
私はオランダ移住後の税務資料を、日本側とオランダ側で別フォルダにしながら、同じ年度で結び直すようにしました。税務は国ごとに完結しているように見えて、実際の申告では同じ収入を二つの言語と二つの制度で説明する場面があります。あとから説明できる形で残すことが、節税より先に大切です。
出国前後の実務チェックリスト
最後に、オランダ移住者が日本側の確定申告を見落とさないための実務順序を整理します。ここでの目的は、税額を最小化することではなく、期限、届出、証拠資料、二重課税の確認を漏らさないことです。
出国前に決めること
出国前に、日本国内に残る所得を棚卸しします。賃貸中または賃貸予定の不動産、日本株や投資信託、日本法人からの役員報酬や配当、個人事業の売上、退職金、年金、保険金などを一覧にします。そのうえで、出国年の居住者期間の所得、出国後も残る国内源泉所得、源泉徴収される所得、確定申告が必要になりそうな所得を分けます。
納税管理人を置く場合は、誰にするか、どの税務署へ届出するか、税務署から届いた郵便をどう共有するかを決めます。不動産管理会社や証券会社にも、海外転居、非居住者扱い、送付先、源泉徴収、取引制限を確認します。証券会社によっては、非居住者になると新規取引ができない、特定口座を維持できない、常任代理人が必要になるなど、税務以外の手続きが出ることがあります。
出国年に確認すること
出国年は、準確定申告の要否と翌年の通常申告の要否を分けます。納税管理人を出国前に届け出たかどうかで手続きの流れが変わるため、出国後に思い出して慌てるより、出国前からカレンダー化しておくほうが安全です。医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除、扶養控除なども、居住者期間や判定日によって扱いが変わることがあります。
また、出国後に日本の家賃や配当が入るなら、源泉徴収の有無と金額を月次で記録します。源泉徴収がある場合は支払者名、支払日、支払金額、税額、実入金額を残します。源泉徴収がない場合も、なぜないのかを確認してメモします。数か月分をまとめて後から見ると、管理会社の手数料や修繕費と税額が混ざりやすいため、入金のたびに記録するのが現実的です。
翌年の申告で確認すること
翌年の日本の確定申告時期には、日本側で申告する所得と、オランダ側で申告する国外所得を照合します。日本側では、国内不動産の収支、国内源泉所得、源泉徴収税額、納税管理人経由の提出、還付口座などを確認します。オランダ側では、日本で発生した所得や資産、日本で納めた税額、租税条約や二重課税軽減の扱いを確認します。
完璧な判断を一人で抱え込む必要はありません。ただし、専門家へ相談する場合でも、資料が整っていないと確認に時間がかかります。年度、所得の種類、支払者、金額、源泉徴収、申告済みかどうかを1枚の表にしておくと、質問が具体的になります。日本を離れたあとも、日本国内の不動産や配当が残る人は、「日本側の手続き」と「オランダ側の申告」を並行して管理するのが基本です。
この記事の結論はシンプルです。オランダ在住中でも、日本国内に不動産収入や日本法人からの配当があるなら、日本側の税務確認は残ります。非居住者になったか、国内源泉所得があるか、源泉徴収で終わるのか、確定申告や還付申告が必要か、オランダ側で二重課税軽減を確認するかを、年度ごとに分けて見ていくのが安全です。