TL;DR: オランダの Box 1 は、給与・事業所得・年金・自己居住住宅まわりの所得をまとめて扱う所得区分です。2026年のAOW年齢前の標準的な税率表では、年所得に対して 35.75%、37.56%、49.50% の3段階が使われます。ただし最初の税率には国民保険料が含まれ、最終負担は税額控除、事業者控除、住宅ローン控除、社会保険の扱いで変わります。日本の「所得税5〜45% + 住民税 + 社会保険料」と同じ感覚で見ると、手取りの見え方を誤解しやすいです。

この記事は、オランダ移住後に給与を受け取る日本人、または eenmanszaak などで事業所得を得る日本人に向けて、Box 1 の構造を日本の累進課税との違いから整理するものです。個別の節税助言、申告代行、法的判断ではありません。実際の申告では、Belastingdienst の最新情報と、必要に応じてオランダ・日本双方の税務専門家に確認してください。

Box 1 は「給与だけの箱」ではありません

オランダの所得税は、所得の種類を Box 1、Box 2、Box 3 に分けて考えます。Box 1 は「income from work and home」と説明されることが多く、給与、事業所得、年金、各種給付、自己居住住宅に関する所得・控除などが主な対象です。日本人が最初に見るべきなのは、Box 1 が「会社員の給与だけ」ではなく、生活の本拠をオランダに置いた後の働き方と住まいの両方に関わる箱だという点です。

日本では、給与所得、事業所得、不動産所得などを総合課税で合算し、所得控除後の課税所得に国税の所得税率をかける理解が一般的です。オランダでも累進課税という点は似ていますが、Box 1 の中に国民保険料、税額控除、住宅関連の扱いが強く組み込まれているため、「税率表だけを見て高い・低い」と判断すると実態からずれます。

給与所得者が見る Box 1

会社員の場合、毎月の給与から loonheffing として給与税・国民保険料が源泉徴収されます。これは日本の源泉所得税に似ていますが、オランダでは所得税と国民保険料が同じ仕組みの中で見えるため、最初の税率が高く見えます。

たとえば 2026 年のAOW年齢前の第1段階は 35.75% です。この内訳は、Belastingdienst の給与税ハンドブック上では所得税部分 8.10%、AOW 17.90%、Anw 0.10%、Wlz 9.65% という構成です。つまり第1段階の 35.75% を見て「所得税だけで35%以上」と受け止めるのは正確ではありません。老齢年金、遺族給付、長期介護に相当する国民保険料が合算されているためです。

事業所得者が見る Box 1

個人事業主、フリーランス、zzp'er として働く場合、事業から出た利益は原則として Box 1 の事業所得に入ります。ただし、Kamer van Koophandel に登録しているからといって、必ず所得税上の ondernemer として扱われるわけではありません。Belastingdienst は、独立性、顧客数、事業リスク、時間投入などを見て、所得税上の事業者かどうかを判断します。

事業所得者は、利益をそのまま税率表に当てるのではなく、事業経費、 ondernemersaftrek、mkb-winstvrijstelling などの控除・免除を反映した後の課税所得で見る必要があります。2025年・2026年の mkb-winstvrijstelling は、一定の条件を満たす事業者について、事業者控除後の利益の 12.7% とされています。ただし控除の税務メリットには上限的な制約があり、2026年は 37.56% の率で効果が計算される点も重要です。

2026年の Box 1 税率は「3段階」で見る

Belastingdienst の 2026 年版 Handboek Loonheffingen では、AOW 年齢に達していない人の給与税・国民保険料の標準的な年額表は、次の3段階で示されています。

| 年間所得の段階 | 税率・国民保険料率の合計 || --- | ---: || €0 超〜€38,883 以下 | 35.75% || €38,883 超〜€78,426 以下 | 37.56% || €78,426 超 | 49.50% |

この表で大切なのは、「€78,426 を少し超えたら所得全部が 49.50% になる」わけではないことです。日本の所得税と同じく、超えた部分にだけ上の段階の税率がかかる限界税率の仕組みです。年収が上がった瞬間に手取りが減る、という理解は原則として誤りです。

第1段階の税率が高く見える理由

日本人が最も驚きやすいのは、低い所得帯から 35.75% という数字が出てくる点です。日本の国税庁が示す所得税率は 5%、10%、20%、23%、33%、40%、45% の7段階で、最初の段階はかなり低く見えます。

ただし日本の表は、国税の所得税の表です。実際には住民税、復興特別所得税、厚生年金、健康保険、雇用保険などが別にあります。一方、オランダの第1段階には国民保険料が含まれます。このため、表面上のパーセンテージだけを横並びにすると、日本は低く、オランダは高く見えやすいです。

さらに、オランダには algemene heffingskorting や arbeidskorting といった税額控除があります。税額控除は所得から差し引く控除ではなく、計算された税額から差し引く要素です。低〜中所得帯ではこの控除が手取りに大きく効くため、表の税率だけで実効負担を推定するのは危険です。

第2段階と第3段階の意味

第2段階の 37.56% は、国民保険料ではなく主に所得税として見える領域です。第1段階との差は小さいため、€38,883 を超えたから急に負担が跳ね上がる、という印象は持たなくてよいです。

第3段階の 49.50% は、高所得帯に入った部分にかかる限界税率です。たとえば課税対象となる Box 1 所得が €90,000 の場合、€78,426 を超える部分に 49.50% がかかります。€90,000 全体へ 49.50% がかかるわけではありません。高い給与オファーを比較するときは、総支給額、30% ruling の有無、年金拠出、雇用主負担の保険、住宅費、税額控除の縮小を合わせて見る必要があります。

日本の累進課税と違うのは「税率」より「組み込み方」です

日本とオランダのどちらが高いかを一言で言うことはできません。家族構成、雇用形態、年金、健康保険、住宅ローン、事業経費、日蘭どちらの居住者かによって負担は変わります。ここで押さえるべきなのは、税率の数字そのものより、何がその数字に含まれているかです。

日本は「所得税の表」と「社会保険」が分かれて見えます

日本の国税庁の所得税速算表では、課税所得に応じて 5% から 45% までの国税の所得税率が示されています。ここに住民税や社会保険料は直接入っていません。会社員であれば、給与明細では所得税、住民税、厚生年金、健康保険、介護保険、雇用保険が別々に表示されるため、ひとつの税率表だけで負担全体を見る習慣があまりありません。

オランダでは、少なくとも第1段階では所得税と国民保険料が一体で表示されます。給与明細でも loonheffing としてまとまって見えることが多く、初見では「所得税が非常に高い」と感じやすいです。しかし比較対象を日本の国税所得税だけにすると、比較の土台がずれます。

オランダは税額控除の縮小も実効税率に効きます

もうひとつの違いは、税額控除の縮小です。オランダでは所得が上がるにつれて、一般税額控除や労働税額控除が段階的に減ります。これは税率表の外側で効くため、限界税率の体感を押し上げることがあります。

日本にも給与所得控除、基礎控除、社会保険料控除などがありますが、制度の見え方は異なります。日本人がオランダの給与オファーを見るときは、gross salary の数字だけでなく、payroll calculator の試算、雇用主年金、holiday allowance、30% ruling の対象可否、家族の保険料、住宅補助の有無を合わせて確認するのが現実的です。

「高税率だから損」とは限りません

オランダの税率は高く見えますが、雇用契約の安定性、休暇、年金制度、医療保険、子育て関連の給付や控除、住宅ローン控除なども同時に見ます。逆に、給与額が高くても家賃、保険料、保育料、通勤費、移住初期費用が重いと、手取り感は日本時代より厳しくなることがあります。

税率だけで移住判断をするのではなく、最低でも年間の手取り、年間固定費、初年度だけの費用、2年目以降の費用を分けて見るのが安全です。特に初年度は、移住年の M-form、二重居住期間、日本側の非居住者判定、日本に残る収入が絡むため、通常年より複雑になります。

会社員と個人事業主では Box 1 の見え方が変わります

日本からオランダへ移る人には、現地企業に雇用される人、リモートワークを続ける人、個人事業主として請求書を出す人、法人を使う人など複数の働き方があります。同じ Box 1 といっても、会社員と個人事業主では毎月のキャッシュフローがかなり違います。

会社員は給与天引きで進みます

会社員は、雇用主が給与税と国民保険料を毎月源泉徴収します。年末または翌年の所得税申告で、控除、税額控除、住宅関連、他の所得などを反映して最終的な精算をします。日本の年末調整に近い安心感を持ちやすいですが、オランダでは本人が確定申告で調整する場面が残ります。

移住直後の日本人は、最初の給与明細で loonheffing の金額に驚くことがあります。ただし、オランダの給与には holiday allowance が別に支払われることも多く、年金拠出や通勤費補助も会社ごとに違います。月次の手取りだけでなく、年額の総報酬で見てください。

個人事業主は「利益」と「納税資金」を分けて見ます

個人事業主は、請求額から経費を差し引いた利益をもとに Box 1 の課税が進みます。事業用口座に入った金額をそのまま生活費として使うと、翌年の所得税・国民保険料・所得連動の医療保険拠出などで資金繰りが苦しくなることがあります。

Belastingdienst は、所得税上の事業者に該当する場合、事業所得を所得税申告で報告するよう案内しています。また、一定の事業者控除には urencriterium が関係し、通常は年間 1,225 時間を事業に使ったことを説明できる必要があります。日本の青色申告の感覚とは似ている部分もありますが、時間要件、独立性、顧客分散、リスク負担の見られ方が違います。

控除があるから手取りが必ず増えるとは限りません

事業者控除や mkb-winstvrijstelling は重要ですが、「フリーランスにすれば必ず税金が安い」とは言えません。会社員なら雇用主が負担している年金・保険・休暇・病欠リスクを、個人事業主は自分で設計する必要があります。税率表だけを見ると事業所得が有利に見える場面でも、傷病時の収入停止、会計費用、賠償責任保険、年金積立を含めると差は縮まることがあります。

日本人の場合、日本側にクライアントや銀行口座を残したままオランダ居住者になるケースもあります。この場合、売上の発生地、契約主体、VAT、為替、源泉徴収、日蘭租税条約の確認が必要になることがあります。一般的な Box 1 税率の理解だけで処理せず、越境要素がある年は専門家確認を入れる方が安全です。

日本人が移住前後に確認する順番

Box 1 の理解は、税率表から入るより、まず自分がどの所得区分に入るかを整理する方が実務的です。特に日本からの移住年は、オランダ側では resident taxpayer になる時期、日本側では居住者・非居住者の判定、日本に残る給与・退職金・不動産収入などが同時に動きます。

まず居住者ステータスを確認します

Belastingdienst は、オランダへ住むために移ると、移住時点から税務上の扱いが変わり、オランダで所得税申告を行う必要があると説明しています。日本人の場合、住民票を抜いたかどうかだけで税務上の居住者性が決まるわけではありません。生活の本拠、家族、職業、滞在期間、資産の所在地などを総合して判断します。

日本側では、非居住者になると日本国外で得る給与への日本課税が原則として変わります。ただし、日本に不動産収入、役員報酬、退職金、日本勤務に対応する賞与などが残る場合は別論点です。オランダ側の Box 1 だけを見て、日本側の申告義務を見落とさないようにしてください。

次に gross と taxable を分けます

給与オファーや事業売上の gross 金額は、そのまま Box 1 の課税所得ではありません。会社員なら年金拠出、30% ruling の対象可否、給与税控除、住宅関連控除などが影響します。個人事業主なら経費、事業者控除、mkb-winstvrijstelling、保険料、年金積立の扱いが関係します。

目安として、給与所得者は雇用契約書、給与明細、年金制度、holiday allowance、tax ruling の有無を確認します。個人事業主は売上見込み、経費、年間 1,225 時間要件の説明可能性、VAT、会計費用、納税資金の積立を確認します。数字を並べるときは、月額手取りではなく年額で見る方が誤差が小さくなります。

最後に「税率表だけで判断しない」と決めます

Box 1 の税率表は、移住後の手取りを理解する出発点です。しかし、実際の負担は税額控除の縮小、社会保険の扱い、雇用主負担、医療保険、住宅、扶養・パートナー状況、移住年の特殊処理で変わります。特に高所得帯、事業所得、日蘭両方に収入がある年は、簡易計算の誤差が大きくなります。

日本人にとっての実務的な順番は、税率表を覚えることではなく、まず居住者判定、次に所得区分、次に控除、最後に申告・納付タイミングを確認することです。これだけで、「オランダは35%から課税されるから無理」「€78,426を超えると全部49.5%になる」といった誤解をかなり避けられます。

本記事は 2026年6月15日時点の公式情報をもとにした一般的な整理です。税率、控除、国民保険料、事業者向け控除は毎年変わります。実際の申告、移住年の M-form、日蘭双方の居住者判定、事業所得の分類は、Belastingdienst、国税庁、必要に応じて税理士・会計士に確認してください。