オランダの所得税申告で出てくる aftrekposten は、日本語では「控除」と訳せます。ただし、日本の所得控除、税額控除、給与所得控除、必要経費を一つの箱に入れて考えると、オランダでは判断を誤りやすいです。特に日本人が見逃しやすいのは、住宅ローン関連の控除、公共交通での通勤控除、自営業者や副業者の事業関連控除です。
この記事では、Belastingdienstの公式情報をもとに、日本人がオランダで確認すべきaftrekpostenを整理します。税額そのものは所得、居住期間、税務パートナー、住宅の使い方、事業の実態、年度により異なります。本記事は一般情報であり、個別の申告結果や税務判断を保証するものではありません。
私は2025年にオランダへ移住してから、日本の「これは控除できるはず」という感覚をそのまま使うと危ないと感じました。日本人にとって大切なのは、控除できそうな費用を探すことよりも、オランダの申告画面で「どの所得に対する、どの種類の控除なのか」を先に分けることです。
aftrekpostenは日本の「控除」と同じ箱に入れないほうが安全です
オランダ語のaftrekpostenは、直訳すると「差し引ける項目」です。Belastingdienstの公式サイトでも、住宅、通勤、寄付、個人控除、事業者向け控除などが別々の入口で案内されています。日本人が最初に混乱しやすいのは、日本で同じ「控除」と呼んでいたものが、オランダでは所得税、給与税、手当、事業会計の別々の場所に現れる点です。
税額がそのまま戻るとは限りません
aftrekpostenは、多くの場合、課税所得や事業利益を下げる方向で効きます。つまり、支払った100ユーロがそのまま100ユーロ戻るという意味ではありません。実際の効果は、所得税率、税額控除、他の控除、税務パートナーとの配分、年間の居住期間により変わります。
日本の住宅ローン控除や医療費控除の感覚で、「いくら戻るか」から考えると、オランダでは遠回りになることがあります。先に見るべきなのは、費用の名前ではなく、その費用がどの制度の条件に合っているかです。住宅ならeigen woning、通勤なら公共交通のreisaftrek、自営なら所得税上の起業家判定や事業費というように、入口を分けます。
heffingskortingenとは別物です
Belastingdienstの同じセクションには、aftrekpostenだけでなくheffingskortingenも並んでいます。heffingskortingenは、日本語では税額控除に近い性質を持つ項目です。一般税額控除、勤労税額控除、給与税のloonheffingskortingなどは、aftrekpostenとは別に理解したほうがよいです。
たとえば会社員が給与明細で見かけるloonheffingskortingは、雇用主が給与税を源泉徴収するときの扱いです。一方、住宅ローン利息や公共交通通勤のreisaftrekは、所得税申告で確認する項目です。日本語ではどちらも「税金が安くなるもの」と見えますが、申請先、入力欄、証明書類が違います。
移住年は「一年分」を前提にしないほうがよいです
日本からオランダへ来た年、またはオランダから日本へ戻る年は、通常の一年居住者と同じように見ないほうが安全です。入国日、BRP登録日、就労開始日、住宅購入日、DigiDの利用開始日、事業開始日が同じとは限りません。所得税申告のフォームや対象期間も状況により変わります。
移住年に大事なのは、控除項目を先に集めることではなく、日付をそろえることです。いつからオランダ居住者として扱われるのか、どの期間に給与や事業所得があるのか、住宅関連費用をいつ支払ったのか、公共交通でいつから通勤したのかをカレンダーで整理します。私はこの作業を先にしておくと、申告画面で迷う時間がかなり減ると感じました。
住宅関連は「自宅ローン」と「購入費用」を分けて見ます
日本人にとって最も金額が大きくなりやすいaftrekpostenは、自己居住用住宅に関するものです。オランダで家を買うと、住宅ローン利息、notaris費用、taxatiekosten、makelaar費用、overdrachtsbelasting、改装費など、似た名前の支払いが一気に出ます。しかし、税務上は「控除できる可能性があるもの」と「購入費用として支払っても控除できないもの」が分かれます。
hypotheekrenteaftrekは自己居住用住宅が前提です
住宅ローン利子控除は、自己居住用住宅に関する借入利息を所得税上で扱う制度です。Belastingdienstは、利息を常に控除できるわけではなく、住宅の使い方、ローンの目的、ローンを組んだ時期、返済方法などにより条件が変わると案内しています。2013年以後の新しいローンでは、通常、30年以内に少なくとも annuïtair または lineair に返済する設計が重要になります。
ここで日本人が注意したいのは、住宅を所有していることと、控除対象のeigenwoningschuldがあることは同じではない点です。投資用住宅、日本に残した自宅、親族が住む家、将来住む予定の家、部分的に貸している家は、同じ「家」でも扱いが変わる可能性があります。オランダで住む自宅なのか、どの借入がその自宅の購入・改善・維持に使われたのかを説明できる状態にしておきます。
控除できる費用とできない費用を明細で分けます
Belastingdienstは、自己居住用住宅のローンを得るための一定費用について、支払った年に控除できる場合があると説明しています。例としては、住宅ローンアドバイザーのadvies- en bemiddelingskosten、hypotheekakteに関するnotaris費用、ローン取得のためのtaxatiekosten、Nationale Hypotheek Garantieの申請費用、一定のboeterenteなどです。
一方で、住宅購入の仲介費用、overdrachtsbelasting、購入 deed に関するnotaris費用、購入に関するkadastrale rechten、メンテナンスや改装費そのもの、ローン元本の返済などは、同じ住宅購入時に払っていても控除できない項目として整理されます。notarisの請求書には控除できる可能性がある行と、できない行が一緒に載ることがあるため、合計額だけを見ないことが大切です。
日本に不動産を残す人は国ごとに整理します
日本の自宅や賃貸物件を残したままオランダで住宅を買う人は、住宅控除だけでなく、国外資産や国外所得の整理も必要になることがあります。日本の住宅ローン控除を受けていた家が、オランダ居住後も同じ意味で「自宅」と扱われるとは限りません。オランダの自己居住用住宅、日本に残した不動産、日本側ローン、賃貸収入、固定資産税などを別ファイルで分けます。
夫婦で移住した場合は、名義と税務パートナーの配分も確認します。オランダの住宅ローン利息や住宅関連所得は、税務パートナー間で配分を考える場面があります。ただし、片方に控除を寄せれば必ず得になるとは限りません。所得税率、税額控除、手当、日本側所得まで含めて、二人合計の納付・還付で比較するのが現実的です。
通勤控除は公共交通と自家用車を混ぜないことが重要です
日本では通勤交通費が給与とセットで扱われることが多いため、オランダでも「通勤費は当然に控除できる」と考えがちです。しかし、会社員の所得税申告で使える通勤関連のaftrekpostenはかなり限定的です。特に公共交通で通勤する場合と、自家用車や自転車で通勤する場合は扱いが違います。
公共交通のreisaftrekは条件付きです
Belastingdienstは、公共交通で職場へ通う場合、条件を満たせばreisaftrekとして一定額を所得から差し引けると案内しています。主な条件は、自分で通勤費を負担していること、公共交通での通勤距離が10kmを超えること、固定の職場へ定期的に通っていること、24時間以内に往復していること、openbaarvervoerverklaringまたはreisverklaringを持っていることです。
ここで大切なのは、実費をそのまま全額控除する制度ではなく、距離、日数、雇用主からの補助などをもとに決まる固定的な控除である点です。会社が交通費を全額補助している場合、同じようには使えません。OV-chipkaartの利用明細は保存期間に限りがあるため、必要な年の記録は早めに取得しておくと安心です。
車・自転車通勤は会社員の所得控除にしないのが原則です
会社員が自分の車、自転車、バイク、スクーターで職場へ通う場合、Belastingdienstはその通勤費を所得から差し引くことはできないと説明しています。一方で、雇用主は一定の範囲で非課税のキロメートル手当を支給できるため、給与明細や雇用契約側で確認する領域になります。
日本人が誤解しやすいのは、ガソリン代、駐車場代、自転車修理代、雨具などを、会社員の確定申告でまとめて控除しようとすることです。オランダでは、会社員の通勤交通費は、公共交通reisaftrekの条件に合うか、雇用主からの交通費補助として扱われているかを先に見ます。自家用車通勤の実費を所得税申告で自由に引けるわけではありません。
自営の移動費は事業費として別に見ます
フリーランスや個人事業主の場合、顧客訪問、取材、現場作業、仕入れなどの移動は、会社員の通勤控除とは別に事業費として検討します。Belastingdienstの事業費一覧では、自分の車を事業に使う場合の一定額のキロメートル扱い、公共交通、タクシー、飛行機などの実費について、証明できることを前提に案内されています。
ただし、自宅から決まった取引先へ通う移動、私用と混ざる移動、家族旅行を兼ねた出張などは、事業費として説明しにくくなることがあります。領収書だけでなく、日付、目的地、目的、相手先、事業との関係を記録しておくことが重要です。会社員のreisaftrekと、自営のzakelijke kostenを同じ表に混ぜないほうが、後で説明しやすいです。
自営・副業の控除は「起業家判定」と「事業費」を分けます
オランダでZZPや個人事業を始める日本人は、KvK登録をした時点で税務上の控除をすべて使えると思いがちです。しかし、Belastingdienstの所得税では、単に登録があるだけでなく、所得税上のondernemerとして扱われるか、winst uit ondernemingがあるか、時間要件を満たすかが重要になります。
ondernemersaftrekは複数の控除の総称です
Belastingdienstは、ondernemersaftrekをzelfstandigenaftrek、startersaftrek、startersaftrek bij arbeidsongeschiktheid、speur- en ontwikkelingswerkの控除、meewerkaftrek、stakingsaftrekなどの総称として案内しています。多くの項目では、所得税上の起業家であること、事業利益があること、urencriteriumを満たすことが入口になります。
特にzelfstandigenaftrekは、日本人フリーランスが気にしやすい控除です。ただし、所得税上の起業家として認められ、時間要件を満たす必要があります。売上が少ない年、雇用収入が中心の年、顧客が一社だけの年、趣味に近い活動の年は、単純に「開業したから使える」とは考えないほうがよいです。
urencriteriumは1,225時間の記録が要です
Belastingdienstは、通常のurencriteriumについて、暦年で少なくとも1,225時間を事業に費やすこと、さらに多くの場合は他の仕事より事業に多く時間を使うことを条件として案内しています。開業が年の途中でも、1,225時間を月割りにできない点は重要です。7月開始だから半分でよい、という考え方は危険です。
時間には、請求できる作業時間だけでなく、見積もり、営業、管理、ウェブサイト作成、帳簿、移動など、事業に実際に使った時間も含まれます。ただし、単に待機していただけの時間や、事業との関係を説明できない時間は弱くなります。Googleカレンダー、請求書、見積書、作業ログ、移動記録を残し、後から第三者に説明できる粒度にしておくことが大切です。
事業費は「必要だったか」と「証明できるか」で見ます
自営業者は、事業のために必要な費用を利益から差し引ける場合があります。Belastingdienstの事業費一覧では、業務用の電話、専門文献、作業着、事業上の移動費、一定の会食・代表費、既存の専門知識を維持するための研修費など、項目ごとに控除割合や制限が示されています。一方で、私用の食費、通常の衣服、個人的な身だしなみ、家庭用電話契約などは扱いが限られます。
日本人が注意したいのは、日本語で「必要経費」と呼べるものでも、オランダ側で同じように扱われるとは限らない点です。たとえば自宅作業の家賃、カフェ作業の飲食、スマートフォン、パソコン、語学学習、渡航費は、事業との関係、私用との混在、証明書類により判断が変わります。領収書を保存するだけでなく、なぜその費用が事業に必要だったかを短くメモしておくと安全です。
mkb-winstvrijstellingは自動でも損失時に注意します
Belastingdienstは、mkb-winstvrijstellingについて、所得税上の起業家であれば申告で自動的に考慮される控除として案内しています。2025年と2026年は、ondernemersaftrek後の利益に対する一定割合として説明されています。自分で別申請するものではない点は、zelfstandigenaftrekなどと分けて理解するとよいです。
ただし、mkb-winstvrijstellingは利益を下げる方向だけでなく、事業が赤字のときには税務上の損失を小さくする方向にも働くと説明されています。つまり、常に「控除だから得」とだけ考えるのは危険です。副業から始めた日本人は、初年度の赤字、設備投資、給与所得との関係を見ながら、事業所得として申告する意味を慎重に確認します。
申告前は「使えるか」より「説明できるか」を確認します
aftrekpostenを探すと、住宅、通勤、自営以外にも、寄付、一定の医療費、扶養的な支払い、lijfrente、障害のある家族の一時滞在費など、さまざまな項目が見つかります。ただし、対象費用、しきい値、証明書類、年度ごとの変更があり、名前だけで判断できません。日本人にとっては、まず大きな三領域を押さえたうえで、該当しそうな項目だけ公式ページで深掘りするのが現実的です。
住宅・通勤・自営の書類を別フォルダにします
住宅関連では、売買契約書、notarisの明細、hypotheekakte、ローン契約、年間利息明細、WOZ-beschikking、改装ローンの使途資料を分けます。通勤関連では、OV-chipkaartの利用明細、openbaarvervoerverklaring、reisverklaring、雇用主からの交通費補助、勤務日数が分かる資料を残します。自営関連では、請求書、領収書、銀行明細、時間記録、移動記録、事業用資産の購入記録をそろえます。
これらを一つの「税務」フォルダに入れるだけだと、申告時にどの制度の証明なのか分かりにくくなります。住宅、通勤、自営、日本側資料を別々にして、さらに年ごとに分けると後で見返しやすいです。紙の書類はスキャンし、ファイル名に日付、発行者、対象項目を入れておくと、オランダ語の書類でも探しやすくなります。
日本側の控除名で翻訳しないほうがよいです
「住宅ローン控除」「通勤手当」「必要経費」「医療費控除」「寄付金控除」という日本語は便利ですが、オランダの制度名と一対一ではありません。日本語に翻訳した瞬間に、制度の境界が曖昧になることがあります。申告では、hypotheekrenteaftrek、reisaftrek、ondernemersaftrek、mkb-winstvrijstelling、zakelijke kostenのように、オランダ語の制度名を残して整理します。
特に日本に所得や資産を残している場合は、日本側で控除できるか、オランダ側で控除できるか、どちらにも関係しないかを分ける必要があります。二重に控除できると決めつけるのも、どちらにも出せないと諦めるのも早い場合があります。日蘭で判断が分かれる項目は、根拠資料を保存したうえで専門家確認の候補にします。
断定できない場面は早めに止まるのが安全です
公式情報を読んでも、判断が難しい場面はあります。家族や海外銀行から住宅資金を借りた場合、日本に不動産がある場合、夫婦の移住時期がずれた場合、会社員と自営を同時にしている場合、自宅の一部を事業で使っている場合、移住年・帰国年に大きな費用が出た場合は、一般記事だけで結論を出さないほうがよいです。
この記事で扱ったaftrekpostenは、節税テクニックの一覧ではありません。申告時に使える可能性がある項目を見落とさないための地図です。最終的には、Belastingdienstの公式情報、申告画面、自分の書類、必要に応じた専門家確認を合わせて判断します。私は「使える控除を探す」よりも、「その控除を聞かれたときに、日付・金額・目的・制度名で説明できるか」を基準にすると、オランダの税務申告はかなり整理しやすくなると感じています。