TL;DR: オランダの Box 3 (資産課税) は、預金・株式・投資信託・暗号資産などの 保有資産の含み益に対する課税 です。2021 年最高裁判決 (Kerstarrest) で旧スキームが違憲とされ、2023-2025 は暫定スキーム、2026-2027 で「実際の収益」ベースの新スキームへ移行が予定されています。NL 居住者の日本人にとって、日本の証券口座 (SBI / 楽天 / iDeCo / NISA) も Box 3 対象です。本記事では 2026 年改正の最新ステータス、日本資産の扱い、口座を残すか移すかの判断軸を整理します。税理士・国際税務専門家の確認は必須です。

Box 3 とは何か — オランダの資産課税の基本構造

オランダの所得税は Box 1 / Box 2 / Box 3 の 3 つに分かれており、それぞれ異なる課税ルールが適用されます。

  • Box 1: 給与・事業所得・年金・持ち家関連 (累進税率、最大 49.5%)
  • Box 2: 5% 以上保有法人の配当・売却益 (24.5% / 31% の 2 段階)
  • Box 3: 預金・投資の含み益課税 (定率課税、改正進行中)

Box 3 は他国にはあまり例のないユニークな課税で、「実際の収益ではなく、保有資産から得られると想定される擬制収益 (deemed return) に課税する」仕組みでした。これが 2021 年最高裁で違憲判決を受け、現在も改正論議が続いています。

Box 3 課税対象資産

NL 居住者の 全世界のあらゆる資産 が対象です。日本人にとって重要なのは:

  • 銀行預金 (NL・日本・第三国すべて)
  • 株式・投資信託 (証券会社問わず、NL・日本・米国 IRA / 401k 等)
  • 暗号資産 (取引所問わず)
  • 貸付債権 (個人間貸付も含む)
  • 海外不動産 (日本の自宅・賃貸物件等。NL 内不動産は Box 1)
  • iDeCo / 確定拠出年金 (条約解釈次第)
  • NISA 口座内の資産

逆に対象外:- 自己使用の NL 内住宅 (Box 1)- 5% 以上保有の法人株式 (Box 2)- 生命保険の解約返戻金の一部 (条件あり)

評価日と為替換算

Box 3 の評価基準日は その年の 1 月 1 日 0 時 00 分 (peildatum)。年末ではなく年始の残高で評価します。日本資産の場合、1 月 1 日時点の為替レート (Belastingdienst 公表値) で円→ユーロ換算します。

基礎控除 (heffingvrij vermogen)

一定額までは Box 3 課税対象外です (2025 年時点で個人 約 €57,000、配偶者合算で 倍額)。具体的な閾値は毎年改定されるため、最新は Belastingdienst で確認。

2021 年最高裁判決と改正の経緯

Box 3 改正論議を理解するには、2021 年の最高裁判決 (通称 Kerstarrest = クリスマス判決) を押さえる必要があります。

旧スキームの問題点 (2017-2022)

旧 Box 3 は「資産額に応じた擬制収益率 (fictief rendement)」を一律設定し、それに対して 31% の定率課税をかける方式でした。

問題点:- 低利回り資産 (定期預金 0% 台) も高利回り資産 (株式 5-10%) も同じ擬制収益率で課税- 投資資産が増えるほど擬制収益率も上がる累進的な擬制- 実際の収益と乖離した課税で、預金中心の高齢者が大きな負担

これに対して納税者が違憲訴訟を起こし、2021 年 12 月 24 日 (クリスマスイブ) の最高裁判決で 旧スキームは欧州人権条約の財産権・差別禁止に違反と判示されました。

暫定スキーム (2023-2025) — 「資産カテゴリ別擬制収益」

最高裁判決を受けて、2023 年から暫定的な新スキームが施行されました。

  • 預金・現金: 低い擬制収益率 (例 0.36%、毎年改定)
  • 投資資産 (株式・投信・暗号資産・債券): 高い擬制収益率 (例 6.04%、毎年改定)
  • 負債: 控除可能な擬制利率 (例 2.46%、毎年改定)

これでも「実際は損失なのに課税される」「実際の収益より高く課税される」ケースは残り、納税者が個別に「実際の収益申告 (werkelijk rendement)」を選べる救済措置が併存しています。

2026-2027 新スキーム — 「実際の収益」ベース

Rijksoverheid の予定では、2026 年または 2027 年から「実際の収益」を基準とする新スキーム に移行します。本記事執筆時点 (2026-05-27) では、施行時期と詳細仕様の最終確定が遅延気味で、2026 年内施行か 2027 年延期かの議論が続いています。

想定される設計:- 実現損益 (株式売却益・配当・利子) は実額で課税- 未実現含み益 (保有株の値上がり益等) も年次評価で課税対象に- 預金・暗号資産・債券それぞれの収益計算ルール- 損失年の繰越制度

新スキームでは「毎年 1 月 1 日と 12 月 31 日の資産差分 + 期中の実現損益 + 期中の支出・入金」を統合して実際の収益を算出する方式が有力視されています。これは事務負担が大きく増えるため、施行スケジュールが二転三転している状況です。

最新の正確な改正状況は四半期単位で動いているため、本記事の数値だけで判断せず、必ず Belastingdienst (https://www.belastingdienst.nl/) で最新を確認してください。

日本の証券口座の取り扱い

ここからが本記事の核心です。日本人 NL 移住者が日本の証券口座をどう扱うかの整理。

結論: 日本の証券口座も Box 3 対象

NL 居住者になった瞬間から、SBI 証券・楽天証券・マネックス証券・大和証券・野村證券 などの日本の証券口座にある株式・投信は Box 3 課税対象です。「日本円建てだから NL は関係ない」「日本の証券口座だから日本の税金だけ」は誤りです。

NISA の特殊性

日本の NISA (少額投資非課税制度) は、日本国内では非課税ですが、NL 側では非課税扱いされません。NL 居住者は NISA 口座内の資産も Box 3 で課税対象になります。

さらに NISA は原則 日本居住者のみが新規買付可能 で、海外移住すると新規買付ができなくなる証券会社が多いです (SBI・楽天はじめ多くの大手が同様)。既存保有分はそのまま持てるケースが多いですが、移住前に各証券会社の規約確認が必須です。

iDeCo の取り扱い

iDeCo (個人型確定拠出年金) は日本居住者前提の制度で、海外移住で 新規拠出停止になります。既存資産は維持できる場合が多いですが、Box 3 評価額に含めるか年金扱いで除外するかは条約解釈・税理士判断が必要です。実務では Box 3 課税対象として扱うのが安全側。

日本の特定口座 (源泉徴収あり) の二重課税問題

NL 居住者が日本の特定口座 (源泉徴収あり) で株式売買すると:

  • 日本側: 売却益に 20.315% (国税 15.315% + 住民税 5%) 源泉徴収
  • NL 側: 同じ売却益が Box 3 評価対象 (擬制または実額)

日蘭租税条約により、日本側の源泉徴収は キャピタルゲインについては居住地国課税優先なので、適切な手続き (NL 居住証明書提出) で日本側の源泉徴収を回避または還付請求できます。ただし証券会社の対応・実務的な手続き複雑性で「面倒だから諦める」日本人が多いのが実情です。

銀行預金の取り扱い

日本のメガバンク・ネット銀行の円預金も Box 3 対象です。1 月 1 日時点の残高 (円) を当日為替レートでユーロ換算して評価。

利子も日本側で 20.315% 源泉徴収されますが、条約により 10% に減額申請可能 (実務的には手続きコストとの兼ね合い)。

「日本口座を残すべきか」の判断軸

「日本口座を残すか移すか」の判断軸を整理します。

残すメリット

  • NISA の含み益を確定せずに長期保有継続できる (新規買付は不可)
  • 日本円資産の保持で為替リスク分散
  • 日本帰国時の口座再開コストゼロ
  • 日本株への投資継続が可能 (NL の証券口座から日本株を買うのは制約が大きい)
  • 日本のクレジットカード・ローンと連動した口座を維持

残すデメリット

  • Box 3 申告の事務負担 (毎年残高評価、為替換算)
  • 二重課税対応の手続きコスト (居住証明書、源泉徴収減額申請)
  • 新規買付制限 (NISA・iDeCo 等)
  • NL 税理士費用の上乗せ (日本資産分の申告対応)
  • 2026 年新スキーム施行で評価方法が変わる可能性 (実額計算の事務負担増)

移す場合の選択肢

NL 移住に合わせて日本資産を整理する場合:

  • DEGIRO / Interactive Brokers: NL/EU で広く使われる証券口座、日本株も買える
  • ABN AMRO / ING の投資口座: 銀行併設の投資サービス
  • bunq の投資機能: 簡易な投資オプション

NL 現地口座に移すことで Box 3 申告は楽になりますが、日本株への投資チャネルが狭くなる点はトレードオフです。

中間案: 日本口座を最小限維持

実務的に多いのが、日本の銀行口座 1 つ + 証券口座 1 つを最小残高で維持し、NL 側に主資産を移すパターン。日本帰国オプションを残しつつ、Box 3 申告の事務負担を抑えられます。

2026 年改正後の影響シナリオ

新スキーム移行後の影響予測。

預金中心の保守的ポートフォリオ

旧スキーム/暫定スキームで「実際の利息ほぼゼロなのに擬制利率で課税」と苦しんでいた層は、新スキーム (実額課税) で大きく救済される見込みです。

高成長投資ポートフォリオ

含み益が大きく出ている日本株・米国株を持つ層は、新スキームで 未実現含み益も課税対象になると年間税負担が増えるリスクがあります。

iDeCo / NISA 維持組

新スキーム下での iDeCo / NISA 評価方法は確定情報が少なく、含み益課税の対象に含まれるか除外されるかが大きな分岐。NL 税理士に最新の取り扱いを確認するのが安全。

暗号資産

旧スキームでは投資資産扱いで擬制収益率が適用されていましたが、新スキームでは 実現損益 + 期末評価差額で実額課税に。ボラティリティの高い暗号資産は、年末タイミング次第で課税額が大きく振れます。

まとめ — あなたが次にやるべきこと

長くなりましたが、本記事のポイントを 5 つにまとめます。

  1. Box 3 は NL 独自の資産課税。預金・株式・暗号資産・海外不動産すべてが対象、評価基準日は 1 月 1 日。
  2. 2021 年最高裁違憲判決を経て改正進行中。2023-2025 は暫定スキーム、2026-2027 で実額課税ベースの新スキーム移行予定。
  3. 日本の証券口座 (SBI / 楽天 / NISA / iDeCo) も Box 3 対象。「日本円建てだから関係ない」は誤り。
  4. 日本口座を残すか移すかは個別判断。NISA・iDeCo 含み益、為替リスク、申告事務負担、帰国オプションを総合考慮。
  5. 2026 年新スキーム施行で評価方法が変わるため、移住時点の最適解が永続するとは限らない。年次見直しが必要。

NL の Box 3 は 四半期単位で運用通達・改正案が出る最も流動的な税制領域です。本記事の数値・条件はすべて 2026 年 5 月時点として読み、実際の判断時は Belastingdienst (https://www.belastingdienst.nl/) と Rijksoverheid (https://www.rijksoverheid.nl/) の最新公式情報、および NL 税理士 + 日本の国際税務税理士 に確認してください。

免責: 本記事は一般情報です。仁田坂は税理士・会計士・弁護士ではありません。Box 3 の評価・申告・最適化、日本資産の整理判断は、必ず NL の認定税理士 (Belastingadviseur) と日本の国際税務専門税理士の両方に確認してください。最新の改正状況・擬制収益率・基礎控除額は Belastingdienst (https://www.belastingdienst.nl/) で要確認。本記事の情報に基づく判断による損失について、当団体(特定非営利活動法人CancerWith)は責任を負いません。