日本からオランダへ年の途中で移住した人、またはオランダから日本や第三国へ年の途中で出る人は、「その年の税金を何か月分で割ればよいのか」と考えがちです。たとえば6月15日にアムステルダムへ到着したなら、6月は半分、7月から12月はオランダ、1月から6月前半は日本、という感覚です。

ただし、税務上の整理は単純な月割りだけでは足りません。オランダ側では、その年にオランダへ移住またはオランダから出国した人向けに、居住者だった期間と居住者ではなかった期間を分ける申告が用意されています。日本側でも、日本の居住者か非居住者か、出国後も日本国内で発生する所得があるか、納税管理人を置いたかで扱いが変わります。

この記事は、税額を自動計算する記事ではありません。移住初年度の税務で二重課税を避けるために、何を「按分」し、何を「国ごと・所得ごと」に分けるべきかを日本人向けに整理します。個別の税額、控除、条約適用は、入国日、出国日、勤務先、家族、資産、届出状況により異なります。最終判断は公式情報と税務専門家に確認する前提で読んでください。

私自身も2025年に日本からオランダへ移住したとき、最初に混乱したのは「税金はどちらの国に払うのか」ではなく、「同じ年の中でどの期間をどちらの国の話として説明するのか」でした。航空券の日付、BRP登録日、雇用開始日、住居契約、日本の最終給与、日本に残した資産を並べると、移住初年度はひとつの暦年の中に複数の税務上の顔があることが分かります。

按分の出発点は月数ではなく居住者期間です

移住初年度の税金を「12分の何か月」と見たくなる気持ちは自然です。しかし、実務ではまず税務上の居住者期間を確定し、そのうえで所得の種類ごとに課税国や二重課税軽減を見ます。家賃、給与、配当、事業収入、退職金、年金、資産残高は、同じ年の中でも別々のルールで扱われることがあります。

入国日、登録日、勤務開始日は同じとは限りません

日本人がオランダへ移るとき、日付が複数あります。航空券上の到着日、ホテルや仮住まいに入った日、自治体でBRP登録した日、BSNを受け取った日、雇用契約の開始日、オランダの賃貸契約開始日、家族が合流した日です。どれも生活実態の説明材料になりますが、すべてが同じ日付になるとは限りません。

Belastingdienstは、オランダへ住みに来ると税務上の立場が変わり、移住後は居住者納税者として所得税申告を行うと説明しています。一方で、オランダ国外の所得があっても、常に自動的にオランダで課税されるわけではなく、二重課税の扱いを確認する必要があります。つまり、入国月を丸ごとオランダ、出国月を丸ごと日本といった雑な線引きではなく、どの日からどの立場になったのかを説明できるようにしておくことが大切です。

按分するものと按分しないものを分けます

按分という言葉には注意が必要です。居住者期間に応じて調整される項目もあれば、所得の源泉地で決まる項目、支払日で見る項目、年末時点の状況で見る項目もあります。たとえばオランダに住んでいた期間の給与と、日本にいた期間の給与は期間で分けやすいですが、日本に残した不動産賃貸や配当は、居住期間だけで単純に消えるものではありません。

同じく、控除や税額控除も「全部を月割りすればよい」とは限りません。M-formや税務ソフト上で居住者期間を入力すると、項目ごとに期間調整や二重課税軽減が反映されることがあります。自分で下書きする段階では、先に計算式を決めるより、所得ごとの発生日、対象期間、支払者、源泉徴収、証明書を整理するほうが安全です。

出国月は最後の月ではなく切替月です

オランダから日本へ帰国する年、または第三国へ移る年も同じです。1月1日から出国日まではオランダ居住者だったが、出国後はオランダ非居住者としてオランダ源泉所得だけが残る、という構造になることがあります。逆に、オランダに住んでいた期間中に日本の所得や資産がある場合は、オランダ側で国外所得や国外資産として申告上の確認が必要になることがあります。

出国月は「その年の税務が終わる月」ではなく、居住者期間が切り替わる月です。住民登録の抹消、勤務終了日、賃貸解約日、銀行口座、保険、年金、事業登録、手当の停止などが同じ月に集中するため、税務資料の散逸が起きやすいです。移住初年度だけでなく離脱年度にも、同じ発想で日付を残しておくと後から説明しやすくなります。

オランダ入国年は M-form で期間を分けます

オランダへ年の途中で移住した年、またはオランダから年の途中で出国した年は、通常の所得税申告とは別に、移住・出国年用の申告が関係します。Belastingdienstの英語ページでは、2025年に移住または出国した人は、その年の申告をオンラインで行える案内があり、紙で行う場合はMフォームを使う説明があります。

M-form は「部分年の申告書」です

M-formは、1年の途中でオランダ居住者になった人、またはオランダ居住者ではなくなった人のための申告です。通常の居住者向け申告と違い、同じ暦年の中にオランダ居住者期間と非居住者期間が混在する前提で入力します。日本人の移住初年度では、年初からオランダ到着前までの日本側期間と、オランダで生活を始めた後の期間を分けることになります。

ここで重要なのは、M-formが「日本で課税されたものはオランダに関係ない」とする書類ではない点です。オランダ居住者になった後に国外所得がある場合、申告上は全世界所得を示し、必要に応じて二重課税軽減を確認します。一方、オランダ居住者ではなかった期間の日本所得を、オランダ居住者期間の所得と同じように扱ってよいわけでもありません。この境目を説明するために、入国日や生活開始日を正確に持っておく必要があります。

DigiD、BSN、郵便の三つをそろえます

オランダ側の申告では、DigiD、BSN、Belastingdienstからの郵便が実務の入口になります。移住直後は、自治体登録、住宅、銀行、保険、勤務先対応が重なり、税務の優先順位が下がりがちです。しかし、申告書や通知はオランダ語または英語の一部案内で届き、期限が付くことがあります。

Belastingdienstは、DigiDがない場合の手続きや、紙のMフォームでの提出、延期申請、処理期間についても案内しています。日本人にとっては、まず封筒を開け、税務年度、提出期限、オンラインか紙か、問い合わせ先を確認することが現実的な初動です。M-formは「いつか税理士がやるもの」と放置するより、自分でもどの年のどの期間の話かを把握しておくほうが、専門家に依頼する場合にも伝達が正確になります。

給与だけでも年度の切れ目は確認します

オランダの勤務先から給与を受け取り、ほかに所得がない人でも、入国年は通常年より確認項目が増えます。日本で年初から移住前まで働いていた給与、オランダで働き始めた給与、日本の退職金や賞与、移住後に残る日本口座の利子や投資収益がある場合、同じ暦年の中で支払者と国が混ざります。

給与だけのケースでは、最終的な税務処理が比較的シンプルになることもあります。ただし、日本の源泉徴収票、オランダのjaaropgaaf、雇用開始日、退職日、賞与の対象期間、退職金の支払日を残しておくことは変わりません。税務上の按分は、記憶ではなく書類で説明するものです。

日本側は出国日と国内源泉所得を切り分けます

日本側の税務では、日本国籍かどうかではなく、日本の所得税法上の居住者か非居住者かが出発点になります。国税庁は、日本の居住者を国内に住所がある人、または現在まで引き続き1年以上居所がある人と説明し、それ以外を非居住者としています。また、住所は生活の本拠を客観的事実で判定するものとされています。

出国前までの日本所得を整理します

日本からオランダへ長期移住する場合、出国前までの給与や事業所得は、日本の居住者期間の所得として整理する必要があります。会社員であれば、出国時の年末調整や源泉徴収票、退職日、最後の給与支給日、賞与の支払日を確認します。個人事業主であれば、出国日までの売上、経費、売掛金、廃業または継続の扱いを確認します。

国税庁は、海外勤務で非居住者になる人について、納税管理人を届け出ない場合に出国までに準確定申告が必要になる場合があること、また非居住者になった後も日本国内で発生する一定の所得には日本の所得税が課される場合があることを説明しています。会社員でも、副業、不動産、株式、退職金などがあると、給与だけの人より確認範囲が広がります。

出国後も日本に残る所得は別枠で見ます

日本を離れたあとも、日本国内の不動産賃貸、日本法人からの配当、日本国内の資産売却、国内源泉の報酬などが残ることがあります。これらは「もう海外在住だから日本では関係ない」とは言い切れません。非居住者になった後でも、日本国内で発生した一定の所得は日本側で源泉徴収や確定申告の対象になることがあります。

ここで混乱しやすいのは、出国前の日本所得と出国後の日本国内源泉所得を同じ箱に入れてしまうことです。出国前給与は日本居住者期間の話、出国後の国内不動産収入は非居住者の国内源泉所得の話、オランダで得た給与は原則としてオランダ側の話、というように線を引きます。日本側の申告が必要かどうかは、所得の種類、金額、源泉徴収、納税管理人の有無で変わります。

納税管理人は早めに決めます

日本を離れる前に納税管理人を置くかどうかは、移住初年度の税務で大きな分岐になります。国税庁は、非居住者が確定申告書の提出、税務署からの書類の受け取り、納税や還付金の受け取りなどを行うために、納税管理人を定める必要があると説明しています。納税管理人は法人でも個人でも構いません。

実務上は、納税管理人は単なる郵便受けではありません。税務署から届く書類を読み、本人へ共有し、期限を管理し、必要なら税理士や管理会社と連携する窓口です。日本に不動産や事業所得が残る人、出国年に確定申告が必要になりそうな人、還付を受ける可能性がある人は、出国前に誰へ依頼するかを決めておくと、あとから慌てにくくなります。

二重課税を避けるには所得ごとの課税権を見る

二重課税を避けるうえで、最初に捨てたほうがよい発想があります。それは「日本に払ったからオランダでは申告不要」「オランダに住んでいるから日本では何も払わない」という二択です。実際には、同じ所得について二つの国で申告が必要になることはあり得ますが、それが同じ所得に必ず二重で税金を払うという意味ではありません。

同じ所得を二つの国で説明することがあります

Belastingdienstは、複数の国に所得がある場合、二つの国で申告が必要になることはあっても、同じ所得に二重に課税されるとは限らないと説明しています。オランダに住んでいて国外所得がある場合は、オランダ所得と国外所得を合わせた全世界所得を示し、租税条約や二重課税軽減を確認する流れになります。

日本人にとって重要なのは、日本側で課税済みの所得をオランダ側で隠すのではなく、日本側でどの所得にいくら課税されたかを説明できるようにすることです。日本の確定申告書控え、源泉徴収票、配当金計算書、不動産収支、納付書、還付通知を残しておくと、オランダ側の申告で二重課税軽減を確認しやすくなります。

租税条約は税務の地図ですが自動処理ではありません

日本とオランダの間には租税条約があり、配当、利子、使用料、給与、不動産所得などについて、どちらの国がどの範囲で課税できるかを整理する枠組みがあります。オランダ政府の条約ページでも、条約は各国との関係を体系化する手段として扱われています。

ただし、租税条約があるからといって、すべてが自動で低い税率になったり、申告不要になったりするわけではありません。配当や利子の軽減税率には届出が必要になることがあり、不動産所得は所在地国での課税が残ることがあります。自営業や法人役員報酬、年金、退職金、ストックオプションのような所得は、条約上の条文確認だけでなく、実際の支払形態も見ます。

為替と年度をそろえます

日本側の資料は円、オランダ側の申告はユーロです。移住初年度は、円建ての日本給与、退職金、不動産収入、配当、源泉徴収税額をユーロで説明する必要が出ることがあります。どの為替レートを使うかは、所得の種類や申告方針により異なるため、支払日、入金日、年平均、公式レートなどを混ぜないようにします。

また、日本もオランダも所得税は暦年で見る場面が多いですが、移住初年度は同じ暦年の中に居住者期間と非居住者期間が入ります。資料のファイル名は「2026_日本_出国前給与」「2026_オランダ_jaaropgaaf」「2026_日本_国内不動産」「2026_二重課税資料」のように、年度と国と所得を入れておくと、あとから探しやすくなります。

入国月・出国月のチェックリスト

最後に、入国月と出国月にやることを実務順で整理します。税額計算そのものより、どの資料を残すか、どの期限を見落とさないか、どの所得を二重に説明するかを先に固めるのが目的です。

入国月に残すもの

オランダへ入った月は、到着日、BRP登録日、BSN取得日、DigiD取得日、賃貸契約開始日、雇用開始日、家族の到着日をメモします。これらはすべて同じ日ではないことが多く、あとから「いつからオランダ居住者として扱うべきか」を説明する材料になります。勤務先からの契約書、初回給与明細、自治体登録の書類、保険加入日も同じフォルダに入れておきます。

日本側では、出国日、転出届、最終給与、退職日または休職日、年末調整、源泉徴収票、納税管理人の届出、日本に残る不動産や証券口座の扱いを確認します。日本の住民票や在留届の話と、所得税上の居住者判定は完全に同じではありませんが、実態説明の資料として時系列に並べておく価値があります。

出国月に止めるものと残すもの

オランダを出る月は、gemeenteへの転出、勤務終了、賃貸解約、健康保険、銀行、手当、事業登録、車、学校などの停止が集中します。税務面では、オランダ居住者期間の最終給与、jaaropgaaf、事業収支、住宅関連費用、Box 3資産、手当の精算、Belastingdienstからの郵便転送を確認します。

出国後もオランダ源泉の所得や資産が残る場合は、非居住者としての申告や通知が関係することがあります。日本へ帰国する場合は、日本側でいつから居住者に戻るのか、帰国後の給与や事業所得をどう扱うのかも確認します。出国月は忙しいため、税務だけ別に年度フォルダを作り、少なくとも通知と給与資料だけは失くさないようにします。

専門家へ相談する前に作る一枚メモ

税理士へ相談する場合でも、最初に一枚メモを作っておくと話が早くなります。書くのは、入国日または出国日、家族の移動日、勤務先、給与期間、日本に残る不動産や配当、オランダで得た所得、日本で源泉徴収された税額、納税管理人の有無、Belastingdienstから届いた通知の年度と期限です。

この一枚メモは、節税テクニックではなく、説明の土台です。移住初年度の税務で避けたいのは、税金を少し多く払うことだけではありません。もっと怖いのは、同じ所得を二つの国に説明できないこと、期限を過ぎること、還付や二重課税軽減の可能性を資料不足で確認できないことです。

結論として、入国月・出国月の税金は「何か月分を払うか」だけで考えると危険です。まず居住者期間を日付で分け、次に所得を国と種類で分け、最後に二重課税軽減を確認します。日本出国年、オランダ入国年、オランダ出国年は、どれも通常年ではありません。月割りの感覚を入口にしつつ、申告では所得ごとの事実と資料に戻るのが、日本人にとって一番現実的な進め方です。