オランダで仕事を探す、転職する、副業や独立の足がかりを作るとき、日本人が早めに慣れておきたい場の一つが職業ネットワーキングです。求人票を読む、LinkedIn を整える、CV を送ることも大切ですが、オランダではイベント、勉強会、業界団体、商工会議所、スタートアップコミュニティのような場で、弱いつながりを少しずつ作る動きが実務上の助けになることがあります。

その中でよく出てくる言葉が borrel です。日本語に直すと「懇親会」「軽い飲み会」に近いですが、日本の会社飲み会と同じものとして見ると誤解します。borrel は、夕方のイベント後に飲み物を片手に短く話す場、社内外の人と近況を交換する場、次に話す約束を作る場として機能することが多いです。仕事をその場で取りに行くより、「この人は何をしている人か」を覚えてもらう入口だと考えるほうが自然です。

この記事では、オランダで働く日本人、これから就職・転職・事業づくりを考える日本人向けに、borrel を含む職業ネットワーキングの場と作法を整理します。ここで扱うのは法的助言や就労資格の判断ではありません。仕事・ビザ・税務・契約条件は状況により異なるため、必要な制度確認は公式情報や専門家へつなげる前提で、この記事では「場にどう入り、どう話し、どう続けるか」に絞ります。

まず結論:borrel は売り込みではなく、次に話せる関係を作る場です

オランダの職業ネットワーキングで最初に押さえたいのは、borrel を「成果を出す場」として詰めすぎないことです。日本人は、イベント参加と聞くと、名刺を何枚配るか、誰に紹介してもらうか、仕事につながるかをすぐ考えがちです。しかし実際には、軽く話して、相手の仕事を理解し、自分の関心を一文で伝え、必要なら LinkedIn でつながるくらいが自然な入口です。

日本の飲み会と違い、会社の序列を持ち込みにくいです

日本の会社飲み会は、部署、年次、上司部下の関係、接待の空気と結びつくことがあります。もちろんオランダでも組織内の立場はありますが、職業イベント後の borrel では、肩書きよりも「何に関心がある人か」「何をしている人か」が会話の起点になりやすいです。偉い人の隣に座り続けるより、短い会話を複数の人と交わすほうが場に合うことがあります。

そのため、最初から長い自己紹介を用意するより、十秒から二十秒で言える自分の説明を持っておくほうが実用的です。「日本市場向けの B2B マーケティングをしています」「英語環境でカスタマーサクセスの仕事を探しています」「日本企業とオランダ企業の間の事業開発に関心があります」のように、職種、対象市場、関心の三つが見える一文があれば十分です。

その場で仕事を頼まないほうが信頼につながります

初対面の相手に、いきなり「仕事を紹介してください」「採用している会社を知りませんか」と聞くと、相手は返答に困ります。Business.gov.nl は、オランダで事業相手を探す場合にネットワーク作りが重要だと説明していますが、それはその場で誰かが成果を保証してくれるという意味ではありません。ネットワークは、信頼、文脈、接点が積み上がって初めて働くものです。

最初の会話では、相手の仕事を聞き、自分との接点を一つ見つけ、次に話す理由を作る程度が目安です。たとえば、「そのテーマは日本企業にも関係しそうです。後日、短く情報交換してもよいですか」と言えれば、相手も判断しやすいです。仕事の依頼や紹介を求めるのは、相手があなたの背景をある程度理解してからのほうが自然です。

お酒を飲めなくても参加できます

borrel という言葉にはお酒の印象がありますが、必ずしも飲酒が中心ではありません。水、ジュース、ノンアルコールの飲み物で問題ない場も多いです。日本人の感覚では、飲まないと場に乗れないのではと不安になるかもしれませんが、オランダの職業イベントでは、飲み物より会話の中身と相手への敬意のほうが大切です。

無理に長時間いる必要もありません。一時間のイベント後 borrel なら、二十分だけ残って二人と話すだけでも価値があります。疲れているときや英語に不安があるときは、最初から「今日は三人ではなく一人と丁寧に話す」と決めると負担が下がります。ネットワーキングは性格を変える作業ではなく、継続できる接点の作り方を身につける作業です。

どこで人脈を作るか:公式・地域・業界の入口を分けます

オランダのネットワーキングは、いきなり知人紹介だけに頼る必要はありません。公式に近い情報源、地域のビジネスイベント、業界団体、国際コミュニティ、大学やスタートアップ関連の勉強会など、入口は複数あります。I amsterdam は、アムステルダム地域のビジネスネットワークや英語のビジネスイベントを整理しており、KVK も英語で参加できるイベント情報を出しています。

アムステルダム周辺なら I amsterdam のビジネス情報が入口になります

アムステルダム周辺で働く、または働きたい人にとって、I amsterdam の Business networks や Business calendar は見やすい入口です。掲載されているネットワークには、スタートアップ、国際商工会、職能開発、女性向け技術コミュニティ、都市のイノベーション関連などがあります。すべてが日本人向けではありませんが、英語で参加できる場を探す手がかりになります。

特に日本人の場合、「日本人コミュニティだけ」と「完全に現地だけ」の二択で考えると動きにくくなります。最初は、日本との接点がある商工会や国際ビジネス系の場で慣れ、次に業界別のイベントへ広げるのが現実的です。たとえば、IT、マーケティング、ライフサイエンス、サステナビリティ、物流、クリエイティブなど、自分の職種に近いイベントを一つ選ぶだけで、会話のテーマがかなり作りやすくなります。

事業や副業なら KVK と Business.gov.nl の情報を見ます

雇用だけでなく、フリーランス、個人事業、会社設立、取引先探しも視野に入る人は、KVK と Business.gov.nl の情報が役に立ちます。Business.gov.nl は、オランダで事業相手を見つける際の組織として KVK、RVO、Enterprise Europe Network、業界団体などを紹介しています。KVK の英語イベントページには、事業相談やパートナーと組んだイベントが掲載されることがあります。

ただし、ここで注意したいのは、ネットワーキングと営業代行を混同しないことです。イベント参加者は、あなたのために顧客を探す義務を持っているわけではありません。質問するなら、「この業界で最初に見るべき団体はどこですか」「英語で参加できるイベントはありますか」「このテーマで話せる人を探すなら、どのコミュニティが近いですか」のように、相手が答えやすい情報質問にするのが安全です。

求職中の人は採用イベントだけに絞りすぎないほうがよいです

就職活動中は、job fair や recruiter event だけを探したくなります。もちろん採用イベントは有効ですが、それだけに絞ると競争が強く、会話も求人の有無に寄りやすいです。業界セミナー、プロダクト勉強会、技術カンファレンス、言語交換に近い職業イベントなどでは、直接採用につながらなくても、職種理解や会社理解が進みます。

私自身、2025 年にオランダへ移ってから、最初に助けになったのは「求人を持っている人」だけではなく、「この街でどのように情報が流れているか」を知っている人たちでした。日本では、転職エージェントや求人媒体に情報が集まりやすい感覚がありますが、オランダでは小さなコミュニティや LinkedIn 上のつながりから、求人票に出る前の温度感を知ることもあります。もちろん条件により異なるため、非公開求人が必ずあると期待しすぎるのは避けたほうがよいです。

会話の始め方:短い自己紹介、質問、退出の型を持ちます

ネットワーキングが苦手な日本人の多くは、会話の中身よりも「どう入るか」「いつ抜けるか」で疲れます。オランダの borrel は立ち話が多く、席順も決まっていないため、日本の懇親会より自由です。その自由さが楽な人もいますが、初参加では逆に戸惑いやすいです。そこで、自己紹介、質問、退出の三つだけ型を決めておくと動きやすくなります。

自己紹介は肩書きより「今の関心」を入れます

最初の一文は、長い経歴ではなく、今の関心が伝わる形にします。たとえば、"I recently moved from Japan and work in B2B marketing. I am exploring how Dutch startups enter Asian markets." のように言うと、相手は次の質問をしやすくなります。日本語の感覚では、いきなり関心や探索中のテーマを言うのは少し前のめりに感じるかもしれませんが、会話の場ではむしろ助かります。

避けたいのは、会社名、肩書き、過去の経歴を全部並べる自己紹介です。相手は初対面で詳細を覚えられません。自分が何者かを一度で説明するより、「この人とはこのテーマで話せそうだ」と一つ覚えてもらうほうが現実的です。英語に自信がない場合は、職種、対象、関心を一文にして暗記しておくだけでも十分です。

質問は相手の専門性を尊重する形にします

初対面で使いやすい質問は、「何をしているのですか」だけではありません。「今日のイベントで一番関心があった話は何ですか」「この分野で最近よく話題になるテーマは何ですか」「この街でこの業界に入るなら、どのコミュニティを見るとよいですか」のように、相手の経験を聞く質問が向いています。

一方で、いきなり給与、ビザ、採用枠、取引条件の細部を聞くと、相手との距離に対して重すぎることがあります。もちろん、採用担当者が明確にその場にいるイベントなら質問して構いません。ただ、普通の networking borrel では、相手の立場を確認してから深い話へ進むほうが安全です。「その話は、今ここで聞いても大丈夫ですか」「後日 LinkedIn で質問してもよいですか」と挟むだけで、押しつけ感はかなり下がります。

会話を終える言い方を用意しておきます

日本人が意外に苦手なのは、会話を始めることより終えることです。相手が話し続けていると、失礼にならないように立ち続けてしまいます。borrel では、短い会話を複数の人とするのが自然なため、会話を閉じる表現を持っておくと楽になります。

たとえば、"It was nice talking with you. I will let you continue networking." や "I would like to say hello to a few more people, but I am glad we met." のように言えば十分です。名刺や LinkedIn につなげたい場合は、"Can I connect with you on LinkedIn?" と聞きます。会話を切ることは失礼ではなく、相手にも他の人と話す余白を渡す行為です。

フォローアップ:名刺交換より、翌日の短い連絡が大切です

日本のビジネスでは名刺交換が儀礼として強く、名刺をもらうと関係ができたように感じることがあります。オランダでも名刺を使う人はいますが、LinkedIn でつながるほうが自然な場面も多いです。重要なのは、交換手段そのものではなく、相手が後からあなたを思い出せる文脈を残すことです。

LinkedIn 申請には一文メモを添えます

イベント後に LinkedIn でつながるなら、無言申請より一文を添えるほうが丁寧です。長文は不要です。"Nice meeting you at the Amsterdam Tech Week borrel. I enjoyed our conversation about Japanese market entry." のように、会った場所と話題を入れます。相手は多くの人と話しているため、文脈がないと誰だったか分からなくなることがあります。

日本人は、丁寧にしようとして長いお礼文を書きがちです。しかし初回の follow-up は、短く、具体的で、相手の負担が少ないほうが向いています。仕事を依頼したい場合でも、初回連絡では「昨日の話題について、追加で一つ資料を共有します」くらいに留めるほうが自然です。いきなり長い提案書や CV を送ると、相手に判断コストをかけすぎます。

次の依頼は「十五分の情報交換」くらいにします

もう少し深く話したい相手には、短い情報交換をお願いするのが現実的です。"Would you be open to a 15-minute coffee chat next week?" のように、時間を短く区切ると相手が判断しやすくなります。何を話したいかも添えます。「オランダの SaaS 業界で日本市場経験がどう見られるかを聞きたい」「この分野で英語求人を探すときの見方を知りたい」のように、一つのテーマに絞ります。

ここで大切なのは、相手が断っても自然に終えられる形にすることです。"No worries if your schedule is full." と添えるだけで、相手は心理的に返事をしやすくなります。ネットワーキングは、相手の善意に依存しすぎると関係が重くなります。お願いは小さく、目的は明確に、断る余地は残す。この三つを守ると、関係が続きやすくなります。

記録は自分用に残します

会った人、話したテーマ、次に送るもの、避けるべき話題は、自分用に短く記録しておくと役に立ちます。特に英語のイベントでは、会話中に理解できたつもりでも、翌日には細部を忘れます。個人情報の扱いには注意しつつ、公開されている所属、話題、自分の次の行動だけをメモする程度で十分です。

私自身、オランダでの会話は日本語の会食よりテンポが速く、名前や役職より「何の話で盛り上がったか」を残すほうが後で思い出しやすいと感じています。名刺の束を持ち帰るより、三人分の短いメモと一つの follow-up を確実に送るほうが、実務上は意味があります。量より継続性を優先してください。

日本人が避けたい誤解:控えめすぎる、急ぎすぎる、内輪に閉じる

日本人がオランダのネットワーキングで損をしやすいのは、能力や経歴が足りないからではありません。むしろ、丁寧にしようとして情報を出さない、関係を作る前にお願いを急ぐ、不安だから日本語圏だけに閉じる、という三つで機会を狭めることがあります。どれも悪意ではなく、文化差と慣れの問題です。

控えめすぎると、何を求めている人か分かりません

日本語では、自己主張を抑え、相手の話をよく聞く姿勢が好印象につながります。オランダの職業ネットワーキングでも聞く姿勢は大切ですが、聞くだけで終わると、相手はあなたを紹介しようがありません。「何かあればお願いします」では広すぎます。「英語環境の customer success roles を探しています」「日本市場に関心がある B2B SaaS 企業と話したいです」のように、相手が思い出せる粒度にします。

これは強引な売り込みではありません。むしろ、相手に判断材料を渡す礼儀です。オランダの国際的なビジネス環境では、背景が違う人同士が集まるため、言わなくても分かる前提は弱くなります。自分の関心、探している領域、提供できることを短く言葉にするだけで、相手は次の接点を考えやすくなります。

急ぎすぎると営業っぽく見えます

反対に、初対面で成果を急ぐと営業っぽく見えます。イベントで話したばかりの相手に、長い提案、採用依頼、紹介依頼、資料送付を一気にすると、相手は距離を置きたくなります。特に日本人が「せっかく会えたから」と頑張りすぎると、相手の温度感より自分の目的が前に出てしまうことがあります。

目安は、初回は相手理解、二回目は情報交換、三回目以降で具体的な協力の可能性を探るくらいです。もちろん相手から「資料を送って」「採用中です」と言われた場合は別です。ただし、相手が明確に求めていない段階では、小さな follow-up に留めるほうが長期的には安全です。ネットワークは、急いで刈り取るものではなく、必要なときに思い出してもらえる関係として育てるものです。

日本語圏だけに閉じると情報が偏ります

日本人コミュニティは大切です。住まい、生活、学校、行政手続き、仕事探しの初期情報では、日本語で聞ける相手がいることに大きな安心があります。ただし、職業ネットワーキングを日本語圏だけで完結させると、オランダ現地の業界感、英語求人の温度、職種ごとの評価軸に触れにくくなります。

おすすめは、日本語圏を安全基地にしながら、月に一回だけ英語の業界イベントへ出ることです。いきなり大規模カンファレンスに行く必要はありません。I amsterdam のイベントカレンダーや KVK の英語イベントのような公式寄りの入口から、小さく試せば十分です。最初は会話が続かなくても問題ありません。場の雰囲気、服装、会話の長さ、LinkedIn のつながり方を見るだけでも学びになります。

まとめ:人脈作りは「知り合いを増やす」より、文脈を残す作業です

オランダの networking borrel で大切なのは、たくさんの人と浅く会うことだけではありません。自分が何をしている人か、何に関心があるか、相手とどのテーマで再び話せるかを、短く残すことです。日本人にとっては、少し自己紹介が直接的に感じるかもしれませんが、相手の時間を大切にするためにも、文脈を明確にする必要があります。

最初の一歩は、小さくて構いません。公式カレンダーで一つイベントを選び、自己紹介を一文だけ作り、当日は二人と話し、翌日に一通だけ LinkedIn メッセージを送る。これを何度か繰り返すと、オランダの職業ネットワーキングは「怖い場」ではなく、「仕事の文脈を少しずつ増やす場」に変わっていきます。成果はすぐに見えないこともありますが、条件により異なるからこそ、焦らず、誠実に、継続できる形で続けるのが現実的です。