TL;DR: オランダに 3 ヶ月以上滞在する日本人には、旅券法第 16 条で在留届の提出が義務付けられています。出さない場合、(1) 緊急時 (災害・テロ・パンデミック) に大使館から連絡が来ない、(2) 邦人保護対象として人数把握されない、(3) パスポート更新や戸籍関連手続きで領事サービスが受けにくい、(4) 在外選挙人名簿登録ができず投票権を行使できない、といった実害があります。罰則は形式上存在しますが現実に課された事例はほぼなし。しかし「罰金ゼロだから出さない」のは合理的でない理由を本記事で整理します。提出は ORRnet (オンライン) で 10-15 分、無料、入国後すぐに完結できます。

在留届とは何か —— 旅券法で義務化された制度

在留届は 外務省・在外公館が在外邦人の安否を把握するための届出制度です。法的根拠は 旅券法第 16 条 にあり、海外に 3 ヶ月以上滞在する日本人すべてに提出義務があります。

提出義務者

  • 3 ヶ月以上の海外滞在予定がある日本人
  • 駐在員・留学生・自営業者・配偶者・子供 (16 歳未満は世帯主が代理届出)
  • 永住権保持者・現地国籍 (二重国籍含む) を除く

提出先

オランダ滞在の場合の届出先は 在オランダ日本国大使館 (Den Haag) です。

  • 住所: Tobias Asserlaan 5, 2517 KC Den Haag
  • Web: https://nl.emb-japan.go.jp/
  • 管轄: NL 全土 (アムステルダム・ハーグ・ロッテルダム等すべて)

何を届け出るのか

  • 氏名・生年月日・性別
  • 本籍地 (日本の戸籍住所)
  • NL の住所 (gemeente 登録住所)
  • NL の電話番号 (+31)
  • メールアドレス
  • 滞在目的 (留学 / 仕事 / 駐在 / 起業 / 家族帯同)
  • 滞在予定期間
  • 同居家族の情報 (世帯届出の場合)
  • 緊急連絡先 (日本国内の親族等)

これらの情報は 大使館の邦人保護データベースに登録され、緊急時の連絡・人数把握に使われます。

出さないとどうなるか —— 5 つの隠れたコスト

「罰則がないなら出さなくていい」と考える人が多いですが、それは表面的な見方です。出さない選択は 緊急時に致命的に効いてくるコストを引き受けることになります。

コスト 1: 緊急時に大使館から連絡が来ない

最も直接的なリスクです。

  • 大地震・洪水・テロ: 大使館は在留届登録者にメール / SMS で安否確認・避難情報を一斉送信
  • パンデミック (COVID-19 のような事態): 帰国便の情報、ワクチン情報、入国制限情報を在留届登録者に優先配信
  • 戦争・内乱: 在外邦人緊急退避便の連絡対象は在留届登録者から

2022 年の ウクライナ情勢でも、在ウクライナ日本大使館は在留届登録者を起点に退避調整を行いました。未登録者は「そもそも存在を把握されていない」ため、優先連絡対象に含まれません。

コスト 2: 邦人保護対象として人数把握されない

オランダで大規模災害・事故が起きた際、外務省は「NL 在留邦人 X 名のうち Y 名が安否未確認」という公式発表を行います。未登録者は 「X 名」にカウントされていない ので、安否確認の対象にもなりません。家族・友人が日本から「NL の彼が無事か」を外務省経由で問い合わせても、登録がなければ「当方では把握しておりません」という回答になります。

コスト 3: 領事サービスが受けにくい

大使館での領事サービス (パスポート更新、戸籍謄本受領、出生届・婚姻届・死亡届の提出、各種証明書発行) を受ける際に、在留届の確認が前提になっているケースがあります。

  • パスポート更新申請時に在留届の未提出を指摘される
  • 大使館の領事窓口でその場で在留届を書かされる (二度手間)
  • 緊急時のパスポート再発行 (盗難・紛失) で時間がかかる

コスト 4: 在外選挙の投票権を行使できない

在外日本人は 日本の国政選挙 (衆議院・参議院・国民投票) で投票権を持ちます。これを行使するには 在外選挙人名簿への登録 が必要で、その前提として 在留届の提出が必須です。

  • 在留届提出 → 大使館で 在外選挙人登録申請 → 在外選挙人証発行
  • 投票方法: 在外公館投票 / 郵便投票 / 日本一時帰国時投票
  • 直近の国政選挙で、海外居住の日本人約 10 万人が実際に投票

自分は政治に関心がない」という人でも、有事の制度変更 (海外居住者の課税・年金・国籍法など) は政治的決定で動くので、登録しておく価値はあります。

コスト 5: 日本国内の各種手続きで証明できない

日本側の役所手続きで「現在の海外住所」の証明が必要になる場合があります。

  • 親の死亡・相続手続きで「海外居住者」の証明
  • 日本国内不動産の管理人選任で在外居住の証明
  • 日本側の年金・健康保険の継続/脱退手続き

在留届は 大使館発行の「在留証明」 という公式文書のベースになります。在留証明は日本側の役所・銀行・税理士に提示できる公式書類で、これを取得するには 在留届の提出が前提です。

罰則の有無 —— 出さなくても捕まらないが

形式的には旅券法に罰則規定がありますが、現実に在留届未提出で処罰された事例はほぼ報告されていません。

旅券法上の規定

  • 旅券法第 23 条 に届出義務違反に対する罰則がありますが、実務的には在留届未提出に直接適用されてきたケースは聞きません

ただし、これは「だから出さなくてもいい」を意味しません。罰則ゼロでも前述の 5 つの隠れたコスト (緊急連絡断絶 / 領事サービス制限 / 投票権喪失) は実際に発生します。

よくある誤解

  • 「短期出張だから不要」: 3 ヶ月未満なら不要。3 ヶ月以上なら義務
  • 「日本の住民票を残しているから不要」: 住民票と在留届は別制度、両方独立
  • 「家族のうち世帯主だけ出せばいい」: 世帯単位で家族全員分を一括届出 (世帯届)
  • 「観光・短期滞在は対象外」: 3 ヶ月未満は対象外、ただし 「たびレジ」 という別制度あり

たびレジとの違い

外務省は在留届とは別に 「たびレジ」 という制度を運用しています。

たびレジ

  • 対象: 3 ヶ月未満の短期渡航者 (観光・出張・短期留学)
  • 提出: ORRnet と同じシステム (https://www.ezairyu.mofa.go.jp/tabireg/)
  • 目的: 緊急時の連絡先確保、現地情報配信
  • 法的義務: なし、任意登録

在留届

  • 対象: 3 ヶ月以上の長期滞在者
  • 提出: ORRnet または大使館訪問
  • 目的: 邦人保護データベース、領事サービス基盤
  • 法的義務: あり (旅券法第 16 条)

長期居住予定でも、入国直後はまず たびレジで登録 → 3 ヶ月超で 在留届 に切替、という流れもありです。

提出方法 1: ORRnet (オンライン) で 10-15 分

外務省の電子届出システム ORRnet が最速ルートです。

URL とアクセス方法

  • ORRnet 公式: https://www.ezairyu.mofa.go.jp/RRnet/
  • 日本語 / 英語対応
  • スマホ / PC どちらでも入力可

入力ステップ

1. 新規登録 (アカウント作成) - メールアドレス入力 → 確認メール受信 → URL クリックでアクティベーション2. 基本情報入力 - 氏名・生年月日・性別・本籍地・パスポート番号3. 滞在情報入力 - 現地住所 (NL の gemeente 登録住所)、滞在目的、滞在予定期間4. 緊急連絡先入力 - 日本国内の親族・知人 1-2 名5. 同居家族 (世帯届) - 配偶者・子の情報を追加6. 送信 - 入力内容確認 → 送信 → 受付完了メール

所要時間: 10-15 分 (家族 4 人世帯届)。手数料無料。

注意点

  • NL 住所が確定してから提出 (gemeente 登録後の住所を入力)
  • パスポート番号は最新のものを入力 (帰国直前更新した場合は要注意)
  • メールアドレスは緊急時に必ず受信できるもの
  • 入力内容は マイページから後日修正可能

受付確認

ORRnet 送信後、数営業日以内に 受付完了のメール が届きます。これで在留届の提出は完了です。

提出方法 2: 大使館訪問 (Den Haag)

オンラインが苦手な人は大使館訪問でも提出できます。

大使館の場所とアクセス

  • 住所: Tobias Asserlaan 5, 2517 KC Den Haag
  • 最寄り駅: Den Haag Centraal Station から徒歩 10 分 or トラム 4 分
  • 開館時間: 月-金 9:00-12:30 / 13:30-17:00 (祝日除く)

訪問前の予約

  • 領事窓口は 予約優先、公式 (https://nl.emb-japan.go.jp/) から予約
  • 在留届だけなら予約なしでも受付可能なケースあり、要事前確認

持参するもの

  • パスポート (全員分)
  • NL の住所証明 (賃貸契約書 or gemeente 登録証 BRP-uittreksel)
  • 戸籍謄本 (任意、世帯届の確認用)

所要時間

  • 在留届のみ: 15-30 分
  • パスポート更新等と同時: 1-2 時間

オランダで Den Haag 以外に住んでいる場合 (Amsterdam / Rotterdam / Eindhoven) は、わざわざ大使館に行くより ORRnet のほうが圧倒的に早いです。

引越し・帰国時の手続き

在留届は一度提出して終わりではなく、変更があれば届出を更新する義務があります。

引越し時 (NL 内)

  • 新住所が決まったら ORRnet マイページから住所変更
  • 所要時間: 5 分

帰国時

  • 帰国予定日が決まったら ORRnet で「帰国届」
  • 大使館の邦人保護リストから削除
  • 所要時間: 5 分

国籍変更時

  • 蘭国籍取得・日本国籍離脱で 「在留届取消」

帰国届を出さないと、外務省データベースに「在 NL」のままで残り、緊急時連絡が重複したり、領事サービスで混乱します。引越し・帰国時の更新も忘れずに。

よくある質問

Q1. 永住権を取ったら在留届はどうなるか

NL 永住権取得後も日本国籍を保持している限り在留届の対象です。永住権 + 日本国籍の状態が継続。

Q2. 蘭国籍を取得 (帰化) したら

日本は二重国籍を原則認めないため、蘭国籍取得 = 日本国籍離脱が原則。日本国籍離脱後は在留届の対象外。

Q3. 子が NL で生まれたら

NL 出生の子も、日本国籍を維持する限り在留届の対象。出生届を 3 ヶ月以内に大使館経由で日本側に提出し、同時に在留届世帯届に追加。

Q4. 配偶者が NL 国籍で、自分だけ日本国籍の場合

自分一人分の在留届を提出。家族構成欄に蘭国籍配偶者・子を任意で記載。

Q5. 海外赴任で会社が手続きしてくれるはず?

会社派遣の駐在員でも、在留届は本人が提出する必要があります。会社が代理提出してくれるとは限らないので、入国後に自分で確認を。

まとめ —— 10 分で出せる、出さない選択は合理的でない

最後にポイントを 5 つにまとめます。

  1. 在留届は旅券法で義務化、3 ヶ月以上 NL 滞在の日本人は対象
  2. 罰則は形式上存在するが現実に課された事例はほぼなし、しかし出さないコストは緊急時に効く
  3. 緊急連絡断絶 / 領事サービス制限 / 投票権喪失 / 在留証明取得不可 の 4 つは実害
  4. ORRnet で 10-15 分、家族 4 人世帯届を一括無料提出可能
  5. 引越し・帰国時も更新義務、忘れると大使館データベースが古いままに

罰金がないから出さない」は短期的には合理的に見えますが、地震・テロ・パンデミックなど予測不能な事態への保険として、10 分の手間は十分に元が取れます。NL 入国 2 週目までに ORRnet で提出するのが理想です。

免責: 本記事は 2026 年 5 月時点の外務省・在オランダ日本国大使館・旅券法の公式情報と実体験に基づく一般情報です。提出要件・手続き・罰則規定は外務省の公式アナウンスで更新されます。最終的な提出判断は、外務省 (https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000043.html) および 在オランダ日本国大使館 (https://nl.emb-japan.go.jp/) の最新情報をご確認ください。